「しっかし、退屈だなー。伐採屋の護衛任務なんてバックレて、ナジャ討伐に参加すりゃ良かったなー。」
 厨房師服に身を包んだニューターが、バトルハンマーを肩に担いだまま欠伸を混ぜつつそう吐き捨てる。
 「ふわー、僕も部屋でゴロゴロしてればよかったー。そうすればクックやソムリエみたいに寝れたのになー。」
 ライチもつられて欠伸を一つすると、隣で寝ているペットを羨ましそうに見ながらそう呟いた。
 「弛(たる)むな。護衛。立派な任務。」
 直立不動を貫くパンデモスが、2人を叱る。彼女も装備はチョッパーに、やはり厨房師服。
 ここはイプス渓谷北端、竹林地帯。竹串補給の為に組織された伐採レランと武装レランのキャラバン、総勢20人あまりがここに居る。
 時刻は夕刻深く。太陽は既に無く、残照もまた闇に追われ姿を消した時。
 闇の時計が動き出した、その刹那。
 突然、悲鳴がイプス峡谷にこだました。


 異変を察知した武装レラン達は、各々(おのおの)の獲物を手に取り構える。
 クックとソムリエは目を覚ますと、すぐ牙を剥いて戦闘態勢に。
 ライチもその雰囲気で事態を察し、一応銃を取り出した。
 「たーすーけーてー!!」
 声はどんどん近づいてくる。それと同時に、何個もの気配が向かってくる。
 やがて森の切れ目から、一人の男が駆けだしてきた。長い金髪のコグニート。
 その直ぐ後ろから、7~8体の、人型をした何かが現れる。
 形こそ人だが、肌が感じる禍々しい気。それはそれが魔物だと、雄弁に語っている。
 魔物達は、躊躇のない早さで武装レラン達に飛びかかると・・・
 ガッ!!
 武装レラン達の武器が一斉に空気と、その魔物達を切り裂いた。
 魔物達はガツッという鈍い音と共に地面へ倒れ、月光にその姿を晒す。
 生気のない目、絵の具で塗ったような一色の肌、筒と筒をボールで繋いだかのような両手両足の関節、そしてぱっくり割れた傷口から覗く胴の内部は・・・空洞。
 それは、本当に人間そっくりの、奇妙な人形であった。
 「何なんだ、こいつは?」
 武装レランの一人が呟いた。
 その問いに答えたのは・・・駆け込んできた男だった。
 「こ、こいつらは、イビルダンサーと、イビルビューティシャンと言います。あのイーゴが作り上げた恐ろしい魔物です。」
 イビルダンサーとイビルビューティシャンは、その声に反応してか、むくりと起きあがる。
 「気を付けてください。こいつらは見た目よりタフです。」
 「そのようだな。排除する。かかれ。」
 その声を合図に、戦いが始まった。


 辺りに人形の残骸が広がる。魔物の生命力は凄まじく、破片でもまだカタカタ動く。だが既に、戦いに耐えうる形状は成していない。
 地面に両足をつけているのは、武装レランとライチのペットだけ。
 だが。
 ある者は髪の毛がボサボサに、またある者はツルツルに。何人もの武装レランが、見るも無惨な姿になっていた。
 お互いの姿を見て、ただ唖然とする武装レラン達。
 「ええっと、助けて頂いてありがとうございました。では私はこの辺で・・・。」
 そう言いながら、男はそそくさとその場を去ろうとする・・・が。
 一人の武装レランが、その首筋を掴むと、吊り上げた。
 「待て。お前、このまま逃げる気じゃないだろうな?」
 と、他の武装レランが男を指差しながら言う。
 「そうだ。お前さっき、そこの人形のドロップ漁ってただろ。俺たちをこんな目に遭わせておいて、一人で逃げる気だったのか?」
 「い、いえ決してそんな・・・。」
 空中でじたばたしながら、言い訳をする男。
 ライチは、気付いた事をそのまま口に出す。
 「あ、もしかすると、お目当てのドロップを手に入れようとして、僕たちにこの魔物を倒させたんじゃないのかな?」
 「う? あ、いや、そんな事・・・。」
 男はあからさまに動揺する。
 武装レラン達は男を囲み、ジト目で睨む。
 「・・・はいそうです。すいません。」
 ついに男は観念した。


 「ええっと、私の名前はロビンソンと言います。職業は吟遊詩人です。」
 「吟遊詩人? 聞いた事無いな。」
 武装レランの一人が口を挟む。
 「吟遊詩人とは、「音楽」というスキルを使用してパーティーメンバーを支援する者の呼び名です。」
 と、他の武装レランが再び口を挟む。
 「音楽スキルか。それなら聞いた事あるぞ。最近ネオクで作られたスキルだったかな?」
 その言葉に頷くと、ロビンソンは言葉を続ける。
 「その通りです。ネオクに住むマエストロ・アドニーが編み出したスキルなのですが・・・実はですね。」
 ロビンソンは一息置くと、意図的に声のトーンを少し落として、囁くように「・・・あのイーゴもまた、音楽を使用したスキルを編み出していたのです。」と言った。
 イーゴ。
 その名前を聞いて、武装レラン達は・・・。
 「そういやそんな奴も居たな。」
 という一人の呟きに、全員が頷く。
 ロビンソンはその場に突っ伏した。だが直ぐに立ち上がり、土埃をパンパンと払う。
 「・・・えっと、まあいいです。そのイーゴが編み出した音楽スキルなのですが、私が調べた所によりますと、イビルシンガーという魔人形にそのスキルを与えたらしいのです。元々はイーゴが余興で作った物らしいのですが・・・。」
 一息吸い、言葉を続ける。
 「後にイーゴの不興を買い、このイプス峡谷へ放逐されてしまったのです。その後、同じく放逐されたイビルダンサー、イビルビューティシャンと共に、夜になるとこの辺りを彷徨っているのです。」 
 「成る程な。しっかしイーゴはなんで、折角作った人形を捨てちゃったんかねー。」
 その問いに、ロビンソンは答える。再び声のトーンを落として、囁くように。
 「ここだけの話ですが・・・どうやら、音楽性の違い、らしいです。」
 
 ・・・・・・・・・イプス峡谷に一陣の風が吹く。
 
 「・・・へ、へー。何だか仲の悪いバンドの解散理由みたいだな。」
 「ちなみにイビルダンサーは踊りの方向性の違い。イビルビューティシャンは髪型に関する価値観の違いで放逐されたと・・・。」
 「えっと、まあいいや。話は分かった。つまりイビルダンサーが持っているであろうイーゴの作った音楽を調べたい、というわけだな。」
 ロビンソンは手を叩いて、声のトーンを上げて答えた。
 「はい。おっしゃる通りです! 私はイーゴの作った音楽を知りたいのです。私たちの音楽とどう違うのか、どこか真似すべき点があるのか? そう、これから訪れるであろう音楽時代(ミュージック・エイジ)の為に!」
 「でも人形が思ったより強かったから、押しつけたんだね? ね?」
 胸を張るロビンソンに、言葉のレイピアが突き刺さる。
 「・・・はい。全くその通りです。」
 ロビンソンは再び項垂れた。
 
 「あの、こんな事をしてしまった後で申し訳ないのですが、もし興味がありましたら手伝っていただけませんか? 放逐されても相手はイーゴの直下。貴重なお宝を持っている可能性もあります。」
 「手伝いって、もれなくあの強制美容の奴と踊らせてくる奴がセットになってバンバンだろ。ドロップ全部貰うのは当然として、他に報酬弾んでくれないとやだかんな。」
 途端、ロビンソンの表情が暗くなる。
 「わ、私は・・・支援系なのであまりお金を持っていないのです・・・吟遊詩人ギルドもまだ立ち上げ中で資金が不足してまして・・・あの・・・。」
 もじもじしながら、ロビンソンはこう切り出した。
 「あの・・・私の唄でどうでしょうか? いつでもどこでも歌わせて頂きますが。」
 「唄・・・?」
 その申し出に、武装レラン一同は顔を見合わせ・・・全員がニヤリと笑い。
 声を合わせて、言った。
 「「「「おっけー!!」」」」 
 
 (第45章 完 → 第46章に続く)

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