いつも、不思議に思っている事があった。
 ビスク西、銀行前広場での事。確かにそこはいつも賑やかなのだが。
 まれに、冒険者が大挙して押し寄せる時があるのだ。
 同時に、鍛冶屋や裁縫屋などの生産者達も集まり露店を並べるのだが、売られているのはあまり質の良くない(おそらくは失敗作なのだろう)武器や防具ばかり。もちろん、その質に見合った値段なのだが・・・。
 だが、その普段は見向きもされないような商品が、この時に限っては飛ぶように売れていく。
 そして、その武器や防具を装備した冒険者達は、魔法使い達のリコールアルターに乗って、どこかへ行ってしまうのだった。
 そして今日もまた。
 ライチは銀行前で、その光景を不思議そうに眺めていた。
 見渡す限りの冒険者。
 道具を売り込む商人の声。
 次々と呼び出されるアルター。
 そして、何故かリンゴの木箱に乗って、一演説ぶっているニューターの戦士が居た。
 「・・・これって、何してるんだろー?」
 興味を持ったライチは、その演説を聞こうと思い、聴衆の輪に入っていった。
 ニューターの戦士は、拳を振りながら熱弁を振るう。
 「・・・であるから、我々カオス殲滅部隊は再び敵地へ赴くのである。我々の調査によって、Wooの成長には彼の場所でしか手に入らない素材が不可欠である事が証明された。諸君らの協力がより一層重要なのだ。立てよ国民! Wooを育てる者、仲間を捜す者、また金目当ての者でも、どんな者でもいい。力無きと嘆く事はない、諸君らが必要ないという事なんて、カオスエイジには一欠片もないのだ!」
 と、その時。ライチは声を掛けられた。
 「貴方もカオスエイジ参加希望ですか?」
 振り返るとそこには、フォレスター装備を着込んだ、金髪の女性ニューターが立っていた。
 ライチは純粋な疑問を口にする。
 「あ、あの。かおすえいじ・・・って何ですか?」
 「あらあら、カオスエイジを知らないの? カオスエイジというのは、45億年前の世界の事よ。その世界には強大な神獣がいて、私たちカオス殲滅部隊はその神獣を倒そうって頑張っている集まりなのよ。」
 「ここの人たちもみんな、そのカオスエイジに行くの?」
 「ええ、そうよ。どう、貴方も? もし神獣に勝てたら、面白い物が手にはいるわよ。」
 悪戯っぽく、フォレスターの女性が笑う。
 「面白い物? 何? 何?」
 「ふふっ、内緒よ。それじゃ、一緒に来てみる?」
 面白い物に興味を持ったライチは、深く考えずに即決した。
 「あ、はい! 行きます! 何を持っていけばいいの?」
 「そうね・・・貴方は見たところ、戦闘系って感じじゃ無さそうだから・・・触媒を適当に見繕って、持ってきなさい。あ、そうそう、カオスエイジの中で倒れちゃうと、持ち物を全部無くしちゃうから、必要な物以外は全て置いてくるのよ。」
 
 ・・・・・・・・・。
 「ふうっ、どうやら間に合えたみたいね・・・もう。」
 フューチャーエイジ、大階段の下。フォレスターの女性は、その段に座って一息つく。
 隣にはライチ。ニコニコしながら雪玉を持っているその姿を見て、少しだけ微笑んだ後、これまでの行程を思い出しもう一度深くため息をついた。
 「全く、こんな手のかかる子をスカウトしてきちゃうなんて・・・まあ、戦力は多いほどいいかしら。」
 と、階段に佇んでいた冒険者達が、皆おもむろに立ち上がり、最上段を見る。
 来た。
 今まで何も無かったそこに、いきなり黒い光が降り注いだ。
 その中に次々と、冒険者が飛び込んでいく。
 フォレスターの女性は、冒険者達とは逆の方向に視線を向け、雪原を見下ろす。そして、丘の上から続く、大量の足跡を眺めた。
 「今日は沢山来たわね。これなら勝てそうかしら。さてと・・・ライチ君、行くわよ。」


 真っ白い大地から、黒いクリスタルの塔が無数に生える。空には星の瞬きさえ感じない・・・まるで怪物の体内に居るかのような世界に着いた。
 目の前には、赤い光の柱が立ち上っている。
 その柱に、冒険者達は次々と飛び込んでいた。そしてライチと、フォレスターの女性も一緒に飛び込み・・・。
 また景色の違う世界へと、飛ばされた。
 「・・・ここは火の門ね。さてライチ君、最下層へ行くわよ。」
 「最下層? どうして?」
 「ふふっ。私たちは何度もここへ来てるから、神獣との戦い方も熟知しているのよ。ここでの戦いは、全員で最下層に集まって、神獣をおびき寄せて戦うのよ。」
 フォレスターの女性は、スロープへ向けて走り出す。慌ててついていくライチ。
 火の門は、それほど広くないエリア。すぐ最下層に到着した。
 「さてライチ君。神獣が現れるまでまだ時間があるわ。ここでの戦い方を教えてあげるわよ。」

ひのもん

 

 フォレスターの女性が言った事を要約すると、こういう事になる。
 一、ここで出てくる神獣の名前はサザンゲートキーパー。
 二、サザンゲートキーパーは三段階の変形をする。一度目は普通に登場。ダメージを与えると七体に分身。全てを倒すと、強力な怪物に変身する。
 三、ライチの役目は、壁際で露店を開き触媒を配る事。
 「最後の怪物を倒せたら、面白い物が手にはいるわよ。じゃ、頑張りましょ。」
 
 苦しそうな呻き声と共に、サザンゲートキーパーが現れた。
 両手に握り剣を携える、人型の神獣。襲いかかる冒険者達を返り討ちにしようと、目にも止まらぬ早さで動き、剣を振るう。
 だが数に勝る冒険者の剣が、槍が、矢が、次々と当たり、次第にダメージを蓄積させていく。
 そんな激しい戦いが繰り広げられている一方、ライチは暇だった。まあ、有利な時の配布役なんて、そんなもんだ。
 「ふわー、みんな強いなー。僕も行こうかなー。」
 露店の中で、ライチはそわそわそわそわ。と、そこにサザンゲートキーパーの声が響く。
 「・・・七ツノ、命ヲ・・・」
 その声と共に、サザンゲートキーパーの分身が現れた・・・ライチの目の前に。
 「・・・って、うわぁ!」
 ライチは慌ててウッディンポールを取るが・・・近くで待機していた冒険者達が、あっという間にサザンゲートキーパーを囲み、事なきを得る。
 「ふうっ・・・危なかったー。」
 ライチの胸はドキドキドキドキ。だが・・・。
 「よし、安全になったところで、僕も行こうっと!!」
 結局、ライチは露店を飛び出し、サザンゲートキーパーに戦いを挑んでしまった。
 「えい、えい、やー! とー!!」
 ポコポコポコポコ。ライチの攻撃は貧弱ながら、何度かサザンゲートキーパーに当たる。だが全く意に介されず、別の冒険者を相手にしているだけ。
 と思ったら・・・。
 後ろからもう一体現れていた。
 不意を突かれた冒険者達は、あっという間に戦列を崩す。そしてライチの前には・・・。
 「坊主、歯ぁ、食いしばれ!!」
 
 「・・・あ、あれ?」
 ライチが目を覚ますと、そこにフォレスターの女性が。
 「もう、やっぱり無理しちゃったわね。落ち着きの無い子なんだから。」
 少し怒りながら、ヒーリングオールを唱えた。
 「あれ? サザンゲートキーパーは?」
 「もう倒したわよ。今、みんな帰るところよ。」
 「えー、最後の怪物、見たかったのに・・・」
 「まあ、仕方ないわよ。次に来たら、見れるかもしれないわよ。それよりほら、上に行きましょ。面白い物が手に入るわよ。」
 「そうだ、面白い物だ! 早く行こ! 早く!」
 フォレスターの女性はライチの手を引いて、スロープを駆け上がる。そして最上段に到着。見ると、そのフロアの真ん中に、光の塊があった。
 「あれは、原初の泉って呼ばれている物なのよ。あの中に手を突っ込んでみなさい。」
 言われた通り、手を突っ込むと。
 「・・・っわぁ!!」
 その手に、何かが絡みついた。慌てて手を引く。すると、絡みついた何かは、一緒に光の塊から引き抜かれて、ライチの足下にポトッと落ちた。
 それは、黒い毛玉のように見えた。だが、もぞもぞと動くと、ライチの足にピタッと張り付く。
 「わ、わ、何これ? 何、何?」
 「捕まえられたようね。それが面白い物、Wooよ。」
 「Woo?」
 すると、自分の名を呼ばれたと分かったのか、Wooは両目を開けて、ライチの顔をじっと見つめる。
 「っっっっわー、可愛い! これ可愛いですねー。」
 「ふふっ、そうね。その子目当てで、ここへ来る冒険者も多いのよ。それじゃ、早く脱出しましょ。あまり長居出来ないのよ、このエリアは。」

 フューチャーエイジの階段に、戻ってきた。
 「じゃあ、ここでお別れね。魔法使い達が出してくれるアルターに乗れば、現代へ戻れるわ。」
 「ありがとうございました。またねー!!」
 ライチはブンブンと手を振ると、Wooと共にアルターへ乗り、現代のビスクへ戻っていった。
 「可愛いなー、お前ー。名前どうしようかなー・・・」
 この時、まだライチは気付いていなかった。自分の服が無くなっている事に。
 そして本当のボスが、この後シェル・レランで待ちかまえているという事に・・・。
 (第23章 完)