2014年アカデミー賞最優秀作品賞 『それでも夜は明ける』のDVDが10月2日に発売された。

それでも夜は明ける コレクターズ・エディション(初回限定生産)アウターケース付き [Blu-ray]/キウェテル・イジョフォー,マイケル・ファスベンダー,ベネディクト・カンバーバッチ
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公開されたときにみて感想を書いていたのに、そのまま寝かせすぎて今更どうしようと思っていたのだけれど、ちょうどよいタイミングがやってきたのでUPしたいと思う。

原題は「12years a Slave 」。1853年に発表されたソロモン・ノーサップ原作の同名小説の映画化だ。北部アメリカに生まれた黒人ソロモン・ノーサップが、金目当ての白人たちに南部に売られ年間奴隷として過ごした日々をつづている。監督は『ハンガー』『シェイムの英国出身スティーブ・マックイーン。


『大統領の執事の涙』や『リンカーン』など、昨年から私のアンテナにひっかかる作品は、黒人奴隷解放の歴史にかかわるものが多かった。オバマ大統領の在任中は黒人の歴史を振り返る作品が増えている気がするが、私がそういう作品を選んでいるだけかもしれない。

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私が黒人奴隷についてもっとも印象に残っている映像作品はというと、なんといってもドラマ「ルーツ」だ。これはリアルタイムで見てはおらず、ライターになってから紹介文を頼まれてことがきっかけで一気に見て度肝を抜かれた。これがNo.1で、あとは『風と共に去りぬ』も南北戦争と黒人奴隷にだけ注目してみると、意外と発見がある。なんと、この原作ではレッド・バトラー以外の白人がほぼKKKのメンバーだという(wikiより)。


風と共に去りぬ 製作75周年記念 コレクターズBOX (数量限定生産/3枚組) [Blu-ray]/ビビアン・リー,クラーク・ゲーブル,オリビア・デ・ハビランド
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デンゼル・ワシントンが主演した『マルコムX』は、キング牧師の友愛とは一線を画すもっと過激な黒人解放運動の歴史を学べる。そういえば、マルコムの原作はアレックス・ヘイリーによるもので、この人こそ、『ルーツ』を書いた作家だった。私は黒人の歴史をこの人から大部分学んでいる、と気が付いた


マルコムX [DVD]/デンゼル・ワシントン,アンジェラ・バセット
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ということをツラツラ書いてみたのは、黒人解放の歴史を、私はほとんど映画から学んでいたことに今更ながら気が付いたからだ。というか、上記にあげた程度が私の知識のすべてというのが正直なところ。

こういう私が、『それでも夜は明ける』をみたのだけど、正直なところ見ながら「あれ、この映画はいったいいつの話なんだろう」と混乱してしまったのである。

『それでも夜は明ける』1841年

南北戦争1861-1865年

ほぉおぉぉーー、そうか。

『それでも夜は明ける』は、奴隷解放前の話だった。それでやっと納得した。しかもノーサップの原作が発表されたのも南北戦争より前だったとは。つまり『風と共に去りぬ』より昔の話だったのだ。

1939年に公開された映画『風と共に去りぬ』で描かれたスカーレット・オハラの生活は、それは豪華だった。

2014年公開の映画『それでも夜は明ける』では、南部の白人の豊かな生活ぶりがあまり伝わってこない。むしろ南部の白人たちも意外とお金がなく自らの生活を維持するのに精一杯の様子が本作では強調されているように思えた。さらに南部の白人たちは心すら病んでいるのでは?というふうに描かれているように感じた。

(マイケル・ファスベンダーがちょっとイカれすぎだったけど、それは原作通りなんだろうか)

そもそも南北戦争が始まったときに、北部の黒人はどういう生活していたのか、ということすら知らなかったから、今回の映画に出てきたように、「自由証明書」なるものをもっていた、ということも映画をみて初めて知ることだった。

映画の完成度については、実はちょっと残念に思っているところがある。

以下2箇所だけあげる。

残念①

“プロデューサー”ブラピが浮きまくっていたこと。原作ではどうなっているのだろうか? 少なくともあれをブラピ以外の人がやるべきだった。


残念②

マイケル・ファスベンダー演じるボビー・サンズの奥さんは、なぜソロモンを買い物に行かせたのか、あそこで紙をくすねる、それだけのためにずいぶん長い尺を割いていたが、そんなに重要なシーンか? 

一方、素晴らしいところは、ソロモンが拉致されて南部に送られる前と後で、「鞭に打たれる」「馬車での別れ」の2つがとても効果的に描かれるところだ。


鞭で打たれる場面①

ソロモンが北部で誘拐された後、体を鞭で打たれて背中が血だらけになる


馬車での別れ①

誘拐されてきた黒人たちが閉じ込められている中に「ご主人様が迎えに来てくれるはず」、と言っていた男がいた。実際、本当にご主人様は本当に迎えにきてくれて、男は南部に売られずに済む。彼が船から降りたとき「自分も助けてほしい」とソロモンは必死に叫ぶ。

この上のシーンが映画の後半にもう一度形をかえて出てくるのだ。

鞭で打たれる場面②

ソロモンがボビー・サンズ(マイケル・ファスベンダー)に命じられてパッツィーを鞭打つシーン。

馬車での別れ②

ソロモンが身分を保証されて助かるときに、自分が鞭うった女性パッツィーが追ってくるのに、振り返りながらも助けなかった。

ではソロモンは自由黒人から奴隷になる被害者。②では奴隷でありながら、同じ奴隷のさらに弱い女性に対して加害者となる。

ソロモンは被害者でありながら加害者にもなったという心の十字架を背負うことになった。

白人が黒人を差別する、黒人が差別されるということだけではなく、さらにそのもう一歩先まで踏み込んでいた。信頼した人に裏切られたり、ふだん暴行を受けている立場の人間が、自分よりさらに弱い立場の女性を鞭打つ状況においやられる。自分が助かるために他の人を見捨てる。暴力と絶望の連鎖でいつも叫び声をあげるのが弱者だ、とそこまで掘っていた。

ここが『それでも夜は明ける』が映画として素晴らしいところで、これだけで一見の価値があると心から思う。



それでも夜は明ける オフィシャルサイト
http://yo-akeru.gaga.ne.jp/