決して“猟奇的”作品ではない秀作『モーヴァン』(リン・ラムジー監督作品) | Eagle-eyed Cinema Review-鷲の目映画評-

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イーグルドライバーの観た映像作品について、あれこれ書いて行きます。
主に「洋画」ですが、ジャンルにはあまりこだわらず、インスピレーションで拝見する作品を選んでいます。
海外の「ドラマ」も最近は気になります。

『モーヴァン』(2002年イギリス/97分:G)

監督:リン・ラムジー

脚本:リン・ラムジー、リアナ・ドニーニ

原作:アラン・ウォーナー(「モーヴァン」)

撮影:アルウィン・カックラー

美術:ジェーン・モートン

音楽:アンドリュー・キャノン、マギー・ペイジン

製作:ロビン・スロボ、チャールズ・パティンソン、ジョージフェイバー

出演:サマンサ・モートン(「マイノリティ・リポート」)、キャスリーン・マクダーモット、レイフ・パトリック・バーチェル、ダン・ケイダン、キャロリン・コールダー、スティーブン・カード・ウェルら

100点満点中74点


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 2002年サンセバスチャン映画祭国際批評家連盟新人監督賞受賞


 監督のラン・リムジーは、この年この作品を

 第55回カンヌ映画祭オープニング上映作品

 テルライド映画祭上映作品

 トロント国際映画祭上映作品  として、それぞれの映画祭に出品しました。初監督長編作品の『ボクと空と麦畑』に継ぐ、2作目で、ロンドン、スコットランド西海岸部、南スペインのアルメニア地方のロケを敢行し、主人公の女性「モーヴァン・カラー」の心情を背景とシンクロさせ、俳優陣に抑えた演技と静かな台詞回しを要求したり、ワザと何でもない風景を背にカットを構成していったフシがあって、日常的シーンに“非日常”を融合させる為に、相当に苦心惨憺したことが伺われます。

 幸いな事に、主演のサマンサ・モートンを得たことで、リムジー監督は彼女の秘めた“非日常”性をシーンに容易に取り込むことに成功しています。クローズアップする部分を違えれば、猟奇的なシーン、異常シーンのオンパレードとなる内容が、まるで温厚なヒューマン作品でも観るような落ち着き意を持って鑑賞者に語りかける部分に、グッグッと来ます。また、性的シーンを極力抑え込むことで、冒頭から作品に「繊細さ」と「大胆さ」という背反し合う2つの印象を与えます。



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 主演のサマンサ・モートンは、スピルバーグ監督作品『マイノリティ・リポート』で、浮世離れした、美貌と透明感を持った予知能力者「アガサ」を演じていますが、今作では同棲する恋人の死を眼前にしても、「ふわふわ」と漂う女性「モーヴァン」を演じ、喜怒哀楽をほとんど表さないその日暮らしのように生活する食品スーパーの青果部門店員です。彼女は、恋人の死を目の当たりにし、静かに悲しみますが、あっさりと今までの生活とは決別し、新たな旅立ちを決心します。欺瞞に満ちた生活から解き放たれたのです。


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 共演のキャスリーン・マクダーモットは、今作の製作にあたって、主人公「モーヴァン」の親友役「ラナ・フィミスター」を選ぶオーディションが行われた上で選ばれた無名の新人です。ある意味、主演のサマンサ・モートンよりも目立つ存在で、リムジー監督はもう一人の“逸材”を発見したと言えます。



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 この作品を観た方で、

 「ラストまで観ても・・・何を訴えたいか?分からない駄作です。」というような感想を持たれる方がいらっしゃるようですが、そのような方々は、何を見てもそんな印象しか、胸中に残らない上辺だけの輩であって、今作に限らず、「理解不能=駄作」と決めつける鑑賞眼のない軽率さには、同情を隠し得ません。


 実際に、同棲相手を失って、ひとつのチャンスを得た女性が・・・こんな行動だって採りうると感じます。

 そもそも、あまりない状況が作品の発端としてあるわけなので、直面した女性が信じられない行動に出る事もありな筋立てです。これが“許容”できない限りは、この作品への理解は到底難しいと言わざるを得ません。



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(あらすじ)

 明滅する淡い光の中で、半裸の男性の腕や背中を愛撫しながら、横たわる下着姿の女性。クリスマスツリーの下で、ピクリとも動かない男性を、ここまで何時間愛撫し続けていたのだろうか。もうこの状況に、見切りを付けるかのように彼女は付けっぱなしのパソコンに向かう。男は、床に大量の血を流し、ながら絶命している。

 自殺だ

 彼女は、 「モーヴァン・カラー」 、スーパーの店員である。警察等に電話しようと表に出るが・・・結局、通報せずに、恋人の亡骸のあるアパートに戻る。自殺した彼からのプレゼントを開けると、革ジャンとライター、ポータブル・プレーヤー、カセット・テープが入っていた。

 浴槽にお湯を張って、胎児のように丸まってから、まるで生まれたての“無垢”な赤ん坊のようになって、また部屋を出て、親友の待つ行きつけのクラブに行くのである。


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 夜の街で、ひとしきり遊んだ彼女は、また彼が残したパソコンに向かう。彼からの遺言と、彼が執筆した小説が残されている。「モーヴァン」は、彼の遺言通り、彼の小説を出版社に送るが・・・著者は、彼ではなく、自分「モーヴァン」として送る事にする。


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 彼女は、次第に死臭を放ち始める恋人の遺体を、解体・血抜きした上で、荒れ地や雑木林に遺棄し、親友「ラナ」と、スペイン旅行に出かけることにする。その後、彼女に大きな転機が訪れる。



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