ちょっと注目している会社・・・エニグモ。

気になる記事がでていたので、紹介します。

ダイヤモンドオンラインの記事より


インターネットは本を殺すのか シリーズの

著作権を無視したエニグモは 雑誌ビジネスの未来を阻害するのか


このところ、「ネットと本」の動きが激しくなってきました。例のグーグル和解の件は、権利者による一時金

(1冊あたり60ドル)の請求期限が来年の1月5日から6月5日に延期され、さらに和解案の修正が11月9日までに行われることになったようです。そんなに時間をおかないところを見ると、修正内容も小規模ではないかと推測

されます。前回 書いたように、筆者は和解案の骨格自体は評価していますので、議論が逆行しないことを望むところなのですが。


 また、アマゾンからは、従来アメリカのみで販売されていた電子書籍端末「キンドル」が、日本を含めた世界

100カ国あまりで販売開始されることが発表されました。以前から実物は見ていますが、やはり自分で使って

みないとと思い早速注文してみました。来週末には手許に届くようです。筆者はソニーが日本で発売した電子

書籍端末「リブリエ」と、同端末に対する配信事業に深くかかわっていましたので、「キンドル」が日本でどの

ように受け止められるのか非常に興味があります。次回レポートしようと思います。

エニグモ社が立ち上げた雑誌ネット購読モデル

 先週は、本ではなく雑誌について、非常に興味深い動きがありました。


 今月7日、株式会社エニグモ社が「コルシカ」というサービスを開始しました。インターネットによる雑誌の販売

サイトですが、通常のオンライン書店と異なるのは、同サイトに雑誌のデジタルコピーが用意され、利用者は雑誌代金を支払うことによりパソコンの画面上で、買った雑誌の全ページを閲覧できるというものです。紙の雑誌本体は送料を追加することにより利用者まで配送されます。


 パソコンでの閲覧は専用アプリを使用し、ダウンロードや印刷はできないように制限されていますが、サーバーに用意された利用者ごとのフォルダにページ単位で保存できるようになっています。雑誌の閲覧は購入後12ヵ月間可能であり、フォルダに保存したページは3年間保持できるようになっているようです。


 開始された時点で、約100誌が販売・閲覧可能となっていたのですが、このサービスは出版社に対する事前

の説明なく開始されました。出版各社にとっては寝耳に水の出来事でしたが、即座に日本雑誌協会(雑協)を

中心として対策を協議し、翌8日には「同サービスは著作権を侵害している」としてサービスの中止を強く要請

することを決定しました。さらにその翌日の9日、雑協はエニグモ社らと会合を持ち、サービスの中止を要請し、

エニグモ社はそれを受けて、雑協加盟社の雑誌については提供を中止するものの、それ以外の雑誌についてはサービス継続の要請もあるため、サービス自体は継続することを表明しました。


エニグモ社の主張はグーグルと同じか

 事態はこれで一旦落ち着くことになりましたが、一体何が問題となったのでしょうか。


 雑誌の場合、編集著作物として版元である出版社に著作権が生じます。もちろん雑誌中の記事や写真に

ついても個別にそのライターやカメラマンに著作権が生じます。エニグモ社の「コルシカ」サービスは、雑誌の

デジタルデータを利用者に閲覧させるために、雑誌をスキャンしてデジタル化していますが、これは雑誌の

「複製」であり、権利者である出版社等の事前許諾がない限り著作権侵害となります。


 また、このデジタルデータは利用者からの求めに応じて画面に表示されるように送信されるものとなりますから、自動公衆送信権及び送信可能化権(送信するためにサーバーに蓄積しているから)をそれぞれ侵害する

ことになります。公衆送信権・送信可能化権も著作権者が専有している権利であり、事前許諾がない限り違法と評価されるのです。


 グーグルの件も、図書館の蔵書を権利者に許諾を得ることなくスキャンしたことから始まりました。グーグルの主張は「フェアユース」ですが、これは「著作権侵害」の事実を前提とした上での反論です。エニグモ社は「私的利用」を理由として、これらの行為は違法と評価されないと主張しています。この反論は正当でしょうか。


 確かに日本の著作権法には「私的使用目的のための複製」は著作権侵害とならない旨の権利制限規定が

あります。しかしこの規定は、私的使用をする者が複製する場合に限られています。私的使用目的の複製の

代行業は含まれていないと考えられていますし、そもそもエニグモ社がスキャンをした時点では、最終的な

利用者(私的使用をする者)はまだ現れていないのですから、この反論が成り立つ余地は全くないと言えるのではないでしょうか。


 エニグモ社は、サービス開始前に複数の法律家に相談したところ「グレーゾーン」という返答を得たということです。しかしどう考えても「真っ黒」な行為であり、「グレーゾーン」と考えた法律家にその根拠を伺いたいところです。


ネット化と浮き彫りになる、「本」と「雑誌」の違い


 しかし、法律論を離れて考えてみると、いろいろと考えさせられる事件です。雑誌や本にCD-ROMをつけて

販売することは10年以上前から行われていることですが、印刷物とともにデジタルデータを提供するという点で、今回のビジネスモデルと類似しています。印刷物とは別にデジタルデータとしての有用性があることは明らか

であり、CD-ROMなどの媒体によるよりも、インターネットによって提供できればタイムラグもなくより便利で

あることは言うまでもありません。


 デジタルデータを提供する場合、最大のネックは複製が容易であることなのですが、「コルシカ」サービスは

「閲覧」なので「ダウンロード」よりは複製の危険性が大幅に減ります。筆者がグーグル和解案を積極的に評価するのも「閲覧」モデルを中心としている点にあり、「コルシカ」サービスのような「閲覧」モデルは、紙の印刷物との共存を考えたときに評価しうるモデルということになります。


 また、エニグモ社及び同社に雑誌を納品する取次である太洋社は、「閲覧」サービスは雑誌購入者にのみ

提供されるものであり、サービス利用者が増える分雑誌の販売数も伸びるのだから、権利者である出版社等に損害はないはずだと主張しています。雑誌を買った人間が自らコピーをしたのと実質的に同じだ、ということなのでしょう。


 たしかに代金を払わない利用者が増えるということではありませんから、損害はないと言えるのかもしれません。もし雑誌の送付を希望しない利用者がいたとしても「閲覧」利用があれば、雑誌の現物は太洋社らが責任をもって廃棄するということですから、雑誌現物の販売数と利用者の数は厳密に一致することになるというわけです。

デジタル化で雑誌ビジネスの可能性は膨らむか

 前回のコラム で、紙の印刷物の読者の一部がデジタルに移行すると、その分紙の印刷物のスケールメリットが減じ、読者数が変わらなくても出版社は厳しい状況に陥りかねないという話をしました。この論法でいくなら「コルシカ」サービスはそのような弊害のないサービスということになります。では、「コルシカ」サービスはよいサービスであり、著作権を盾にとった出版社の拒絶姿勢はおかしいということでしょうか。


結論からいうとそうではない、と考えます。本と雑誌とはその位置づけが大きく異なります。本は著作物頒布の「最終形態」ですが、雑誌はそうではありません。インターネット環境との共存を考えた場合、例えばグーグル

和解案のような共存ルールを作らない限り、本の場合は紙とデジタルとは競合関係になりますが、雑誌の場合は、デジタル化したものの配信のタイミングをずらしたり、内容を変更・再編集したりすることにより、元の雑誌

とは異なる価値を作り出すことが可能です。


 事実、雑協内に雑誌コンテンツデジタル推進委員会が設置され、出版業界以外からも多数の企業が参加している雑誌コンテンツデジタル推進コンソーシアムが発足し、動き出しています。ここでは、インターネット環境における「雑誌」の様々な可能性を模索し、読者の利便性だけではなく、全ての雑誌関係者がメリットを享受できるような枠組みを作ろうとしています。


 この点で「コルシカ」サービスは、雑誌の売り上げに影響を及ぼさないスキームなら勝手にやってもいいだろう、というもので、版元には雑誌売上の維持程度のメリットしかなく、せっかくデジタル化してもそこからのリターンが放棄されている構造です。もしこのような形が中途半端に定着してしまうと、雑誌コンテンツをいろいろな形でデジタル流通させていこうという現在の動きを阻害することにもつながりかねません。


 雑協はこの件に対し「近い将来、権利処理環境が整った段階で、新たにより魅力的なサービスモデルの提示を期待する」旨の見解を出しています。グーグルをおもわせるような乱暴なやり方は、権利を盾にとった拒絶を招きます。その結果法廷において評価できる和解案が成立したとしても、今のグーグルのようにその手法の妥当性にばかり議論が集中し、肝心の「紙とネットとの共存の可能性」についての議論が深まっていかない、ということになりかねません。


 エニグモ社は「グレーゾーン」ならばやってしまおうと考えたということのようですが、そもそも「真っ黒」なのですから、まずそこを白くすべく、出版社らとの話し合いを先行させるべきではなかったでしょうか。