これは、勤務校の話ではない。誓っても、空港の見える大学の話ではない。
今年、初めて、非常勤で行くことになった、某国某首都の隣県にある新設大学の話である。
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大学は勝手に作ってはいけない。文部科学省の審査がいる。当たり前だ!!。学費のみならず多額の税金が投入されるのだから、勝手気ままに設立していいわけではない。
そんなわけで、ある大学のある学部を新設する場合には、その学部の教授団(ファカルティ)が研究する学問、例えば法学部なら法学、経済学部なら経済学、理学部なら理学、工学部なら工学、医学部なら医学といったように、決められた科目がある。その科目にあたる教員を、大学の新設にあたっては、準備しなければ、開学してはならないことになる。これを俗に設置審査という。
そんなわけで、新設の大学のとある学部に科目として金融経済学が必要ということで、指導教官から話があって、有無を言わさず、片道二時間半、往復5時間かけて、1コマを教えに行くことになった。
実は、僕は非常勤に教えに行くのはそんなに嫌いではない。むしろ大好派といえよう。勤務校はあまりいい顔はしないが・・・。勤務校は、残念ながら、公団住宅のようなコンクリートの塊のキャンパスだから、緑の多い郊外の大学に行くと、空気はおいしいし、非常に気分転換になる。また、勤務校はマンモス大学なので、いまひとつ人情というのがないのだが、小規模大学に行くと週1回でも学生や職員が顔馴染みになって声をかけてくれるので愛着が湧いてくる。
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だから、結構、楽しみにして(新幹線・特急代は出ない。高速バス代も出ない。タクシー代も自腹)でも、いそいそと初回ガイダンス用のパワーポイントを作成して、えっちらおっちら平野を横切り、川を越えて、駅からタクシーで20分強のその新設大学に赴いた。
受講生は、登録50人。事務室で名簿も渡され、名簿を眺めながら、あれこれ授業の展開をイメージしていた。
チャイムの音
指定された教室に行く。50人といえども、新設大学らしく、扇形の小講義室Cである。定員は100人程度。非常に授業がしやすそうだ。勤務校も見習ってほしいなぁと思いつつ、パソコンとプロジェクターをセットし、学生を待った。
学生を待った。待った。待った・・・・誰も来ない
はて?、教室を間違えたかな? 書類で確認する。やはり小講義室Cである。
誰も来ない。窓の外には、この地方特有の田園風景が広がる。緑の田を見ながら、目の保養にはいいのだが、心の中は穏やかではない。
事務室に確認に行くと・・・特段驚いた風でもなく、のんびりと
「教室に学生さんがいないんですか?」
「いないんですよ、登録は50人と伺っているんですけど」
「そうしたら、30分待っていてください。来なかったら、自然休講ということで・・・」
「はぁ?」
自然休講は先生が来なかった場合じゃなかったけ・・・。学生が来ないのは・・・大昔なら授業ボイコット。だけど、まだ一回もこの大学には来たことないし・・・授業ボイコットもないか。
えー、まさか、登録50人全員が授業をサボり・・・(絶句)
「本校では第1週はオリエンテーション期間となってまして、第一回目の授業を受けたのち、もう一度、学生が修正して正規の科目登録になります。」
「でも、第1回めの授業なんでしょう?「出欠を毎回取るように御校からは指示されていますが・・・。」
「・・・・。」
てなわけで、帰りのタクシーを読んでもらい、また片道2時間を乗り継ぎ乗り継ぎ、帰ってきた。
しかし、いくらオリエンテーション期間とはいえ、科目登録はしてあるのだから(最終ではないものの受講意思はあって確認のためにオリエンテーション授業をするのだから)、いったいどういうことなのだろう?
長い教員生活、20年前にさかのぼる、大学生の塾や家庭教師のバイトでも、大学院時代の司法試験予備校の講師生活でも、助手時代の非常勤の講義でも、教室に1人もいないなんて、1回もなかった。
ちなみに政府系金融機関に勤めた社会人生活でもアポ相手がすっぽかすなんてことはなかった。
これでは、授業崩壊だって起きはしない。だって、教室に人がいないんだから・・・。
でも、事務員の面々も落ち着き払って慣れていたなあ。教室に確認にも来なかったし。
まさかオリエンテーション期間は、こんなことは日常茶飯事
まさに、初日のホラー教室、この世の中に、そんな話があるとは思えないから、真昼に夢を見ていたのかもしれない。
そもそも、大学もなかったのかもしれない。相当な田舎だから狐か狸に騙されたか。
明日、第二回の講義にまた首都圏を横断して赴く。
本当に、大学はあるのか、某TV局のドッキリなのか、それとも狐や狸のたぐいか。
真相は明日の午後である。一応、第二回の講義の準備はしました。