いまや中国に対する援助中止や削減が世界的な流れである。だが、これに逆らうかのように中国向け融資を増やし続けている唯一の国際援助機関がある。日本が最大の出資国であるアジア開発銀行(ADB)で、その対中融資はさらに増加の一途をたどっているのである。
 ADBは日本が米国と並ぶ最大の出資国(16%)で、世界銀行が米国の支配下にあるように、同行は日本政府、なかでも財務省の影響力が圧倒的な国際団体だ。創設も日本政府の主導だったし、人事にしても歴代の総裁はすべて日本人で占められている。現八代目総裁の黒田東彦氏も元財務省の国際金融キャリアである。・・・・・

 だがそうなると素朴な疑問が浮かんでくる。日本の外務省がかかわる中国ODAは廃止と縮小の方向が確定しているのに、なぜ同じ日本の役所である財務省が資金と人事を握るADBの中国援助は増えているのだろうか、ということである。誰が考えても面妖な話である。
 これでは日本政府の一貫した整合性のある対中国援助戦略はどこからも浮かんでこない。ODAはやめるが、ADBの融資は増やしましょうというのでは、両足を一緒に前に出して歩きましょうというようなものだ。援助額だけではない。融資の中身を見ても、ODAとの統一性や連動性が感じられないのだ。

 具体的に説明したい。円借款ではすでに中国国内の交通インフラ整備は援助対象にはなっていない。2001年度を最後に、以後、援助案件から姿を消した。・・・・
 だが逆にADBの中国支援の中身を見ると金額だけでなく、円借款が中止したこの道路や鉄道建設分野への支援がうなぎのぼりなのであるそれもODAで政府の自助努力が謳われているはずの商業ベースに乗らない内陸地域のものが圧倒的なのだ。・・・・・

東アジア共同体志向のADB歴代総裁

参考記事
 ADBの中国融資のめり込みの理由は、まず歴代ADBの総裁たちの中国認識があげられる。具体的に言えばその「東アジア共同体」志向が問題なのである。この点は、近年、急速に中国との金融協力を本格化しつつある財務省自体の姿勢も大きな影響をもっている。
 ADBの現総裁は黒田東彦氏だが、彼は2005年4月にフィリピンで開かれた総会の際に、取材につめかけた記者に中国観を聞かれて「中国は覇権主義的ではない」と言い切り、メディア関係者の話題になった人物だ。・・・・

 その結果、日本政府は国民の反発に考慮して対中ODAはやめるものの、ADBという財務省の影響下にある第三者機関を通じた迂回融資をしているのでは、との疑惑がささやかれることになる。
 具体例をあげておく。外務省のホームページで「ODA」にアクセスしてみるとよくわかるのだが、2001年度の円借款供与案件の中に甘粛省と湖南省の道路建設支援がある(前者が200億円、後者が230億円)。こののち、先の「対中国経済協力計画」などが出されたこともあり、こうした交通インフラ分野に対する支援は円借款から姿を消す。繰り返すが、内陸の道路や鉄道建設は支援の対象ではなくなったのである。

 だが財務省が管轄するADBからはいまも厖大な援助がこの内陸地域に継続中で、具体的に紹介すると内陸の道路建設にADBの(計画も含む)援助額(2001~04年まで四年間)は実に2763億円。前出したODA最後のふたつのインフラプロジェクトが430億円だから、ADBからの融資はその七倍近くに達するわけだ。

 次のデータは(データ省略)2001年から四年間の合計でADBが援助した交通インフラ事業リストの一覧だが、個々の援助総額も半端ではない。・・・・・
 国際社会がもう援助不要という道路や鉄道建設のオンパレードである。十五年間の融資総額が9083億円だから、ここ四年間の総額3038億円の突出ぶりがいやでも目立つ(ADBの中国総融資額は1989年の加盟以来、2004年まで1兆6338億円、このうち交通インフラ分野への援助額はトータルで9038億円である)。・・・・

 2001年を最後に円借款リストから消え、融資の対象でなくなったはずの湖南省と甘粛省の道路開発案件が三年後、ここでADBの融資対象として姿を現すのである。
『週間文春』(2005年12月8日号)がADBを管轄する谷垣禎一財務大臣(当時)の中国女性との性的スキャンダルを伝えた記事の中に、当時の武大偉駐日中国大使が谷垣氏を訪問して、円借款の継続を強く要請したという一文がある。
 当時の中国側の思惑を日中経済関係者はこう解説する。「中国が渇望していたのは西部開発、東北開発など内陸の開発プロジェクトのためのいっそうの援助でした。引き続き日本のODAに強い期待をかけていた。なかでも道路や鉄道などの交通インフラへの支援要請は真剣で執拗だった」。

『文春』の記事によれば谷垣氏は「国民世論の反対」を理由に武大使からの援助要請を断ったと書かれている。
 ならばこの湖南省、甘粛省の融資はなんなのだろうか。先に疑惑と呼んだのはこのことだ。ADBの交通インフラ支援シフトは「事実上の円借款の肩代わりではないのか」(前出の関係者)との不信の声は根強い。・・・・

 東アジア共同体構想は美しい言葉である。だが冷静に読者の方々と考えてみたい。たまたま隣に住んでいるというだけで文化も習慣も違い、年収にして4万未満の中国の農民と624万円の日本人が本当に共生可能なのかどうか、である。私にはそれは幻想の産物としか見えない。
 だが幻の東アジア共同体を目指して、ADBの中国のめり込み融資はさらに本格化しつつある。
 ADBへの出資金はすべて私たち日本人の税金である。ADBには日本国民に対して説明責任がある。まず積極的に援助の実態と疑問に答えていただきたい。円借款が終わったとばかり思っていた国民はただただ唖然とするばかりである
引用終わり

 こういうことは国民には一切知らされておらず、マスコミも野党も追及しまん。
 国民の無関心にも大きな責任があるのではないでしょうか。増税も問題ですが、税金の中国への使われ方は、日本の安全問題まで影響する大問題だと思うのですが。


「中国に喰い潰される日本(チャイナリスク)」