監督・脚本 アッバス・キアロスタミ
撮影 柳島 克巳
編集 バーマン・キアロスタミ
主題歌 エラ・フィッツジェラルド「Like Someone in Love」
出演 奥野 匡、高梨 臨、加瀬 亮、でんでん
2012年 日本/フランス
『友だちのうちはどこ?』『桜桃の味』のアッバス・キアロスタミ監督が、
六本木で見たキャバクラ嬢から発想を得たと言う、日本を舞台に、
日本人のスタッフ、キャストを使って作った本作は、恋人や親に内緒で、
デートクラブでアルバイトをしている女子大生を中心に、
学歴はないが、若くして起業し、自動車修理工場を経営する
独占欲が強く粗暴な恋人と、妻に先立たれて独居生活をしている、
年老いた元大学教授の客が、思わぬ形で遭遇して起こる、
サスペンス仕立ての愛憎劇で、タイトルは、1944年にアメリカで製作された、
日本未公開のミュージカル「ユーコンの美女」の同名挿入歌から来ています。
♪最近、星空を見ている自分がいる ギターを耳にしながら まるで恋してるみたい
自分のすることに驚くこともある あなたのそばにいるときに限って♪
と歌われている様に、女子大生を思う、恋人と老人双方の恋慕の情が見せ場に
なっていますが、台本が無く、役者たちが即興で演じているのかと思えるほど、
ありきたりな日常会話だけでストーリーが構成されているので、
ラストシーンでの緊迫した恐怖は、等身大のリアルさで伝わって来ます。
タイトル曲は、本作でも効果的に挿入されていますが、もう一曲気になる曲があって、
それは、女子大生が乗車したタクシーのラジオから流れていた、高田みずえの
『硝子坂』です。『硝子坂』は、1977年に大ヒットした曲なので、何故21世紀の現在にと
違和感を覚えたのですが、この歌の歌詞に、♪意地悪なあなたは いつでも坂の上から
手招きだけをくりかえす 私の前には硝子坂 キラキラ光る硝子坂♪とあるように、
この曲を通して、女子大生の恋慕の情も伝えたかったのではないでしょうか。
本作では、電話は留守電になっているか、繋がっても、途中で邪魔が入って会話が成立せず、
対面しても、知られてはならない関係を隠すための嘘によって塗り固められていたりして、
コミュニケーションの危うさが一貫して描かれていますが、イラン人の監督にとっては、
日本人の匿名性が異常に見えたのだと思います。
余談になりますが、タイトルロールで、特別協力者として、「トウキョウソナタ」の
黒沢清監督の名前がありましたが、日本語のわからないアッバス監督のために、
演出の補助を頼まれたのかもしれません。
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