監督・脚本 ニール・ブロムカンプ
撮影 トレント・オパロック
編集 ジュリアン・クラーク、リー・スミス
出演 マット・デイモン、ジョディ・フォスター、
2013年 アメリカ
難民として隔離されたエイリアンたちと人間の確執を描いた「第9地区」で、
アパルトヘイト政策を皮肉った、南アフリカ出身の若手監督ニール・ブロムカンプが、
今回も、全労働人口の75%を占める黒人の80%が、年間63万円未満の低所得者で
ある(2008年調査)という、南アフリカのもうひとつの社会問題である貧富の格差を、
近未来を舞台にカリカチュアして描いています。
アパルトヘイト廃止前は、全人口の20%を占めていた白人は、治安の悪さや逆差別から
逃れるために国外へ80万人が移民して、2009年には9%まで激減していますが、
本作では、一部の富裕層たちが、荒廃した地球から逃れて、宇宙に浮かぶスペースコロニー
に移住する設定になっていて、その場所では、脳死以外のどんな病気や怪我(顔半分を
失くしても、元通りに再生する)でも一瞬にして治してしまう医療設備が完備されるなど、
ストレスのない暮らしが保障されたオアシスのような街を形作っています。
「第9地区」と同じように、ドキュメンタリーを観ているようなリアル感のあるSF映画なのですが、
エンターティメント性も兼ね備えていて、客を選ばない分かりやすいストーリーで、
息つく暇もなく、最後まで楽しませてくれます。
残念なのは、富めるものを権力者、貧しきものを虐げられし者という単純な構図と、
主人公をキリストを意識した救世主としている点で、勧善懲悪の安っぽいヒューマニズムと
宗教的偽善に満ちた展開に、あざとさを感じてしまいました。
貧者が高度な医療を受けられないことで、命にも格差が生まれると言う一点だけに
焦点を絞るのは良しとしても、所得格差や失業問題に伴う治安の悪化等、地球での
主人公を取り巻く悲惨な環境を、もう少し客観的に描いていれば、観客も他人事ではない
身近な問題として、主人公の想いを共有できたのではないでしょうか。
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