ファウスト | 人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

ネットの海を漂う吟遊詩人になって
見知らぬあなたに愛を吟じよう


人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

監督・脚本 アレクサンドル・ソクーロフ
原作 ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ

撮影 ブリュノ・デルボネル

編集 イェルク・ハウシルト

出演 ヨハネス・ツァイラー、アントン・アダシンスキー

    イゾルデ・ディシャウク、ハンナ・シグラ

2011年 ロシア



「モレク神」(ヒットラー)「牡牛座 レーニンの肖像」(レーニン)「太陽」(裕仁天皇)と、

実在の権力者を描いてきたアレクサンドル・ソクーロフ監督が、次の題材に選んだ

権力者が、ゲーテが60年の歳月をかけて完成させたライフワーク「ファウスト」で、

煩悩に囚われてしまった男が、欲望の赴くままに魂の在り処を求めて、

神の領域に踏み込んでいく姿が描かれます。


人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

マルガレーテ役のイゾルデ・ディシャウク
人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

 ファウスト役のヨハネス・ツァイラー

日本語訳で1部、2部合わせて900ページを超える長編戯曲を、

忠実に映画化することは当然不可能なので、第1部の少女マルガレーテとの

逢瀬を叶えるために、ファウストが魂と引き換えに悪魔と契約をするエピソードを

ストーリーの中心に据えて、前3作との色あいを保つために、ファンタジー性を排除した

リアリスティックな映像表現で、人間のグロテスクさが強調されますが、ファウストが、

美しい青年に姿を変える原作と違い、中年オヤジの醜悪さを曝け出したままなので、

無垢さをより際立たせたマルガレーテだけは、正に「時よとまれ、お前は美しい」と

表現したい神々しさで、観客も惑わされてしまいます。

悪魔メフィストは、本作では奇形の高利貸しとして登場して、欲望のシンボルとして

描かれますが、どことなくゴラムに似ているところがご愛嬌でしょうか。

その所為かもしれませんが、ラストシーンで高利貸しを痛めつけたファウストが、

当て所なく荒野へ旅立っていく姿が、世界を統べる指輪の誘惑に打ち勝って、

精霊とエルフだけが住める不死の国アマンへ航海する「ロード・オブ・ザ・リング」の

フロドと重なってしまいました。


人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら
ミュラー(高利貸)役のアントン・アダシンスキー


ファウスト [DVD]/ヨハネス・ツァイラー,アントン・アダシンスキー,イゾルデ・ディシャウク
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