撮影 ケン・ケルシュ
編集 アンソニー・レッドマン
出演 シャニン・リー、ウィレム・デフォー
2011年 アメリカ/スイス/フランス
オゾン層の破壊によって、終末を迎えようとしている世界を描いた本作は、
ラース・フォン・トリアー監督の「メランコリア」と同じく、避けようのない災厄を前にして、
死に対峙することになった主人公の中年男と若い女が、アイデンティティークライシスに
直面する姿が描かれますが、地球の滅亡を救うためのヒーローは登場しませんし、
ディザスター・ムービーとしての見せ場もなく、鬼才アベル・フェラーラ監督の観念的な映像が
展開されるだけの地味な作品なので、SFアクション映画を期待して鑑賞する方には、
お薦め出来ません。
私が若い頃に影響を受けた寺山修司の著「ポケットに名言」で、一番記憶に残っている言葉が、
ルーマニアの政治家ゲオルゲ・ゲオルギュ=デジの言葉「もし世界の終わりが明日としても、
私は今日林檎の種をまくだろう。」ですが、本作でも、すべてが無に帰してまう事に想像力が
及ばないのか、街はいつも通りの喧騒を保ち、中年男と若い女もアパートの一室にこもって、
身体を寄せ合い、趣味に没頭したりして、普段と変わらない生活を送っていますが、
やがて死の恐怖に捉えられると、瞑想に耽ったり、TVに映し出される著名人たちの意見に
耳を傾けたり、Skypeで友人に連絡をしたりと、思いつくあらゆることを試みて正気を保とうと
しますが、口から出てくるのは、愚かな人間に対する愚痴ばかりで、宗教も哲学も科学も、
人間の作り出したものは、自然の前では幻想に等しいことを思い知らされます。
「教えてよ、あなたならどうする。4時44分(地球滅亡の時間)になったら何をする。」と、
映画は最後に観客に問いかけますが、私は主人公たちのように、
「私たちはすでに天使だった」と思える心境にはなれずに、いつまでも人間の弱い部分を
さらけ出していることだろうと思います。
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