少年は残酷な弓を射る | 人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

ネットの海を漂う吟遊詩人になって
見知らぬあなたに愛を吟じよう



人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

監督・脚本・製作総指揮 リン・ラムジー

製作総指揮 スティーブン・ソダーバーグ

原作 ライオネル・シュライヴァー
脚本 ローリー・ステュアート・キニア

音楽 ジョニー・グリーンウッド

撮影 シェイマス・マクガーヴェイ

編集 ジョー・ビニ
製作総指揮・主演 ティルダ・スウィントン

出演 ジョン・C・ライリー、エズラ・ミラー

2011年 イギリス/アメリカ


平凡な日常の枠の中に囚われることが嫌で、子供を作ることを拒んでいた冒険家の

著名な女性作家が、子育ても、新しいページを開くための冒険と考えを改めて、

高齢出産のリスクを背負いながら、長い陣痛の苦しみに耐えて男児を授かりますが、

赤児の時から全く懐かない、自分の持つ負の部分だけを具現化したような敵意に

満ちた息子で、その矛先を向けられた彼女に対する嫌がらせは、成長とともに

エスカレートして行き、やがて全米を震撼させる事件へと導かれて行きます。


本作は、アメリカの女性作家ライオネル・シュライヴァーが、40歳代前半に書いた

ベストセラー小説“We Need to Talk About Kevin”の映画化で、

8歳の時に“子供なんかいらない”と宣言していた原作者が抱く、妊娠の恐怖や

子育てへの不安から来る、母親になることへの躊躇いをカリカチュアした内容になっていて、

911テロ事件やコロンバイン高校銃乱射事件等で暗い影を落とすアメリカ社会の中に、

新しい命を送り出すことの無責任さも、小説を書く動機付けになっています。

少年は、アメリカの良き時代のファミリーを築き上げる幻想に取りつかれている父親には

純朴な子供を演じて、二つの顔を使い分けることで、夫婦の争いが絶えなくなるのですが、

映画では、その部分が簡略化されているので、権謀術数に長けた頭の良い少年と言う

人間的な一面が見えて来ず、悪魔の申し子の様な気味の悪さだけが強調されています。

他にも原作では、少年が嫌悪する、虚飾に満ちた偽りの人生を送る目障りな存在として、

ベビーシッターや学校の教師、同級生等が登場して、母親と同じように、彼らが大事に

している大切な物を破壊するために、悪意の手が及んでいますが、映画では、

上映時間に限りがあるため、母親と息子の戦いだけに絞り込まれているので、

少年が最後に辿り着く犯罪の動機付けが不明瞭になっています。

同じ理由で、ラストシーンでの、刑務所の面会室で、息子を愛おしく抱擁する母親の姿に、

唐突の感を免れないのはそのためです。

映像のセンスが良かっただけに、もう少し登場人物たちの人間の部分をシナリオに

書き込んでいれば、近年稀に見る傑作になっていたでしょう。


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