悲しみのミルク | 人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

ネットの海を漂う吟遊詩人になって
見知らぬあなたに愛を吟じよう


人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

監督・脚本 クラウディア・リョサ
音楽 セルマ・ムタル
編集 フランク・グティエレス
出演 マガリ・ソリエル、エフライン・ソリス
2009年 ペルー/スペイン


1990年にペルーの大統領選で、ネオリベラリズム(新自由主義)を提唱して
アルベルト・フジモリとの決選投票で敗れた、ノーベル文学賞受賞者でもある
マリオ・バルガス・リョサの姪クラウディア・リョサが、ペルー内戦期間中に、
極左武装組織センデロ・ルミソンやトゥパク・アマル革命運動(MRTA)によって
行われた理不尽な先住民や小作農民に対する人種差別や女性に対する
性差別などの人権侵害の記憶を、テロの時代に生きた母親が受けた
暴力に対する恐怖を、母乳から受け継いだ主人公ファウスタを通して
描いた寓意劇です。
ペルー内戦で受けた悲惨な体験を歌にして娘のファウスタに伝えていた
母親の死から始まる本作は、母親の埋葬費用を捻出するために、
20年間演奏会を続けている女性ピアニストのメイドとして働くことになった
ファウスタが、母親から受け継いだ恐怖を紛らわせるために、
同じように即興で作った歌を口ずさんでいるのを聴いた女性ピアニストが、
その歌に魅せられて、行き詰まっていた新曲の発想を得るエピソードや
ファウスタの叔父が取り仕切る結婚式の場面をユーモラスに描くなど
過去にいつまでも拘るのでは無く未来に目を向けたポジティブな視点と
女性ならではのリアリズムを廃した詩的な語り口で、重いテーマを
ストレス無く観る事ができます。

(ここからネタバレあり)

特に、ひとりで外に出歩くことができず、気味悪がらせてレイプされないようにと、
膣内にジャガイモを挿入しているファウスタが、庭師とのふれあいの中で
閉ざしていた心を開いて、取り出されたジャガイモが芽を出し花を咲かせて
戻ってくるラストシーンに、未来への希望を集約させて表現した監督の感性に
止めを刺されました。


映画(全般) ブログランキングへ