哀しき獣 | 人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

ネットの海を漂う吟遊詩人になって
見知らぬあなたに愛を吟じよう



人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

監督・脚本 ナ・ホンジン

撮影 イ・ソンジェ

編集 キム・スンミン

出演 ハ・ジョンウ、キム・ユンソク、チョ・ソンハ

2010年 韓国



何年か前に、「キムチを売る女」という映画を観て、中国に、朝鮮族(中国の国籍を持つ朝鮮人)と

呼ばれる少数民族が、200万人近く居住していることを知りました。

中でも、中国東北部の吉林省南部に位置する延辺朝鮮族自治州に人口が集中していますが、

住民の多くは生活の窮乏から韓国に出稼ぎに出て行て、彼らがもたらす国外からの送金が、

延辺財政総収入の3倍近くに達しているそうで、韓国経済も、彼らが最下層の仕事を

支えてくれなければ、成り立たない状況になっています。

延辺でタクシー運転手をしている朝鮮族の主人公も、ひとりで一家を養えるだけの稼ぎが無いために、

妻が已む無く、子供の面倒を母親に委ねて、韓国に出稼ぎに出て行ったのですが、

頼みにしている送金どころか音信も途絶えてしまい、入国資金で借りた金の返済が滞ってしまいます。

そんな窮地に陥ってしまった主人公は、地元の裏社会を牛耳っている男から、

借金を棒引きにする代わりに、韓国に行って、男をひとり殺してくるようにと究極の選択を迫られると、

妻を探し出したいという思いも重なり、韓国行きの密航船に乗って黄海を渡って行きます。

映画の前半では、出稼ぎによって起こる離散家族の問題や、朝鮮族に対する韓国人の差別の

現況になっている、犯罪の問題が描かれていますが、後半からは、主人公が、

朝鮮族と韓国の二つの暴力組織そして警察からも追われる羽目になり、

ナ・ホンジン監督の前作「チェイサー」以上の、包丁やナタが殺し合いの道具になる、

観客に痛みを強いる血まみれの追走劇が始まります。

リメークを前提に、ハリウッドのスタジオが資金を出した作品だけに、

エンタメの要素が詰め込まれたバイオレンス・アクション映画に仕上がっていますが、

ありえない場面の連続で、リアリズムが破綻していまう後半のストーリー展開によって、

主人公が人殺しを請け負ってしまう哀しい動機付が、説得力のないものになってしまった事が

惜しまれます。


哀しき獣 ディレクターズ・エディション [DVD]/ハ・ジョンウ,キム・ユンソク,チョ・ソンハ
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