ウィンターズ・ボーン | 人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

ネットの海を漂う吟遊詩人になって
見知らぬあなたに愛を吟じよう



人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

監督・脚本 デブラ・グラニク
脚本  アン・ロゼリーニ
原作  ダニエル・ウッドレル
音楽  ディコン・ヒンクリフ
撮影  マイケル・マクダナー
出演  ジェニファー・ローレンス、ジョン・ホークス、デイル・ディッキー
2010年 アメリカ


19世紀のアイルランドで、主食のジャガイモ疫病によって、
人口の20%近くの餓死、病死者を出したとされるジャガイモ飢饉。
その影響で、200万人以上のアイルランド人が国外に脱出して、
その一部がアメリカに移民することになりました。
しかし、WASPと呼ばれるアングロ・サクソン系の人種によって
支配されていたアメリカで、宗教や風習の違いから差別された彼らは、
農耕や牧畜に適さないアバラチアの山奥に追われるように移り住み、
本作のオザーク高原に住む人々の様にコミューンを形成して、
外界から孤立した生活を送るようになり、ヒルビリー(丘に住む田舎者の
アイルランド人)やクラッカーズ(貧しい白人)の蔑称で呼ばれるようになります。
彼らが持ち込んだ音楽はヒルビリー・ミュージックと呼ばれ、
カントリー・ミュージックのルーツとされていて、本作でも、画面全体に漂う
寒々とした荒涼感に満ちた風景にマッチしたマリデス・シスコ(カメオ出演)の
物悲しいが優しさに包んでくれる歌や、曲を奏でるバンジョーが小道具として、
効果的に使われています。

あらすじは、ドラッグの売買で収監された父親の代わりに、精神を病んだ母親と
幼い弟妹の面倒を見ている17歳の少女のもとに、父親が自宅を保釈金の担保にして
行方不明になったと連絡が入ります。
期日までに父親が出廷しなけば、家も土地も奪われてしまう窮地に立たされた少女は、
父親の行方を求めて悪の巣窟へ足を踏み入れて行く事になるのですが、
本作では、ヒルビリーに対する言及が全くないので、ヒルビリーの歴史を知らずに観ると、
主人公の少女が、叔父から危険だから近づくなと忠告された親族たちが、唯の冷酷な
犯罪者の集団にしか見えず、映画に対する見方が随分と変わってくると思います。

危険を顧みず、家族を守ろうとする少女の健気さを見ていると、
私たちの生きる世界は悪意に満ちているけど、自分を必要としている人がいる限り、
立ち向かっていかなければならないんだと言う、荒ぶる気持ちにさせてくれますが、
それは、エンディングの歌詞にあるように、
長く生きて行く中で理解できる事なのかもしれません。


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