撮影 サヨムプー・ムックディープロム
編集 リー・チャータメーティクン
出演 タナパット・サイサイマー、ジェンンチラー・ポンパス
2010年 タイ/イギリス/フランス/スペイン/ドイツ
固定カメラによる長回し(114分の上映時間で僅か160程のカット割り)、
馴染みのないタイ映画、映画初出演の役者たちにBGMなしと、
レビューで睡魔に襲われたと言う意見が多数を占めるのが納得できる
飾り気のない作品で、私もインターネットの同時配信で、
自宅のソファーに凭れて緊張感のない状態で映画を鑑賞したので、
冒頭の木に繋がれた牛の場面を何度も見る羽目に陥ってしまいましたが、
日を改めて、たっぷり睡眠をとってから再チャレンジすると、
自然と人間の交わりや、生と死の狭間にある有と無を超越した空(くう)の境地に
踏み込んだ、作品の持つ静謐な世界観に引き込まれると同時に、
タイで度々起こる軍事クーデターにシンボライズされる人間の罪を対比させた
監督の思いが切々と伝わってきて、心地よいカタルシスに包まれていました。
腎臓の病が進行し、死期を悟った主人公の前に、死んだ妻の亡霊と
行方不明だった息子が猿の精霊に姿を変えて現れ、食卓で和気藹々と語り合う場面や、
産道のような洞窟の中で主人公が、この場所で生まれたことを思い出して、
前世について語りだす場面など、私たちの宇宙は仮初ではないかと
いう思いにさせてくれる、本物のファンタジー映画です。
輪廻によって繋がっている。そして精霊までもが…
本作を観終わった後に、命の美しさ、宇宙を構成している見えない力を
感じていたのは、東北関東大震災によって、世界が善意の輪で
繋がっていることを目の当りにしたことも関係しているのかもしれません。
本年度ベストワンを狙える傑作です。お見逃しなく。