監督 トム・フーパー
脚本 デヴィッド・サイドラー
撮影 ダニー・コーエン
編集 タリク・アンウォー
出演 コリン・ファース、ジェフリー・ラッシュ、ヘレナ・ボナム=カーター
2010年 イギリス/オーストラリア
国よりも女を選んで英国王を退位した長男のエドワード8世に
代わって、王位を継承することになった次男のアルバート王子だが、
不幸なことに吃音症で、肝心のスピーチが大の苦手。
過去に著名な医師達の治療を受けてきたが、
一向に改善の兆しが見られず、あきらめかけていた時に、
エリザベス妃が知人から紹介されたのが、シェークスピア役者を
夢見てイギリスに移住してきたオーストラリア人の言語聴覚士
ライオネル・ローグだった…
私も人前で話すのは苦手で、弟の結婚式の披露宴で
スピーチした時に、『媒酌人』を『晩酌人』と言い間違えてしまい、
心配して見ていた女房が溜息を付いていたことを今でも
思い出すのですが、冒頭の場面で、父ジョージ5世の代理で
スピーチすることになったアルバート王子が、聴衆の前で言葉を
発することが出来ず青ざめていく姿に、当時の自分の姿が重なり、
心臓の鼓動が高まっていくのを感じていました。
王室版ピグマリオンともいえる本作は、吃音の原因が心の問題に
あると見抜いたローグが、アルバート王子が王族であることの
重圧から抑え付けていた人間的感情を言葉にして吐き出させようと、
下品な言葉を連呼させたり、替え歌にして語らせるなど、
王室関係者が観たら卒倒するような場面の連続で、
コリン・ファースとジェフリー・ラッシュの名優二人が、
丁々発止の遣り取りで笑いを誘います。
いつの時代にも通用するシンプルでオーソドックスなスタイルの
作品で、これから映画の世界を目指そうとする若者には、
これ以上にない優れた教材ですが、否定的な見方をすると、
新しさがなく今が欠けていることが玉に瑕でしょうか。
映画の題材としては、アルバート王子よりもローグの方が
魅力的で、ローグをメインに持ってくれば、より人間味のある
リアルな作品に仕上がっていたと思います。