池田倫太朗くん
郎ではなくて朗(ほが)らかな方の郎です。
よく間違えて怒られます。ごめんなさい。
最近では去年の文学座アトリエの会「かのような私 –あるいは斎藤平の一生−」で主人公斎藤平(亀田佳明)の息子役、今年3月の本公演「寒花」での看守役、また大河ドラマ「西郷どん」や「いだてん」への出演、「ためしてガッテン」のガッテンボーイズなど、舞台に映像に活躍しております。
そんな彼は文学座座員1年目。
研究所に入所してから早くも5年。
そう、彼と出会ってもう5年です。
僕が研究所の発表会「わが町」を担当した最初の年の夜間部にいました。
倫太朗は研究所の門を叩くまで、幼い頃からサッカー一筋の人生
鹿児島実業高校時代にはインターハイに出場し、大学もスポーツ推薦でサッカーをしていたようです。卒業後もクラブチームへの誘いもあったようですが、彼は何を思ったか、クラブチームの誘いを断り、就職の道を選ぶわけでもなく、文学座の門を叩きます。
それまで、演技の経験もゼロ、台詞をどう読んでいいかも分からないので人前に立つとふわっとしているにも関わらず、どこか芯があり、また彼の明るさと笑顔は人を引きつけるものがありました。
勿論、彼よりも上手い研究生はいたのですが(というかみんな彼よりも上手かった 笑)、彼を「わが町」の主人公ジョージに配役しました。ジョージは勉強が少し苦手ですが、生徒会に推薦される学校の人気者、放課後はキャプテンとして野球部に打ち込みすぎて、幼なじみのエミリの恋心に気がつかないような男です。僕の中で倫太朗の明るさまっすぐさ、そして彼の持つエネルギーがジョージがすごく重なったので彼にジョージを任せました。
研究所の発表会では、一つの役を何人かでリレーしていきます。彼は2幕のジョージを演じました。台本でいえば数ページでしたが、やはり苦労していました。立ち稽古では極端に言えば右手と右足が同時に出るぐらいのへっぽこさ。演技の基礎が無いのだから当然です。
そこで、彼に伝えました。
僕「おい、倫太朗」
倫「はい」
僕「この場面を上手く演じようと思うな」
倫「思ってないっす。いや、思ってます。でも、出来ないっす(泣)」
僕「舞台はフィールドだ!!」
倫「・・・」
僕「舞台はフィールなんだ!!」
倫「…何、言ってるんですか? 高橋さん、大丈夫っすか?」
僕「うるせぃっ!!」
倫「…はい」
僕「後半43分、1−1で膠着してる」
倫「やばいっすね、何か手を打たないと…監督!!」
僕「倫太朗、お前を投入するから、何すればいいか分かってるな?」
倫「…かき回してくればいいんすね、監督!!」
僕「馬鹿野郎、お前にはゴールを決めてもらいたんだよ!!」
倫「任せて下さい、監督!!」
僕「まず、パス(台詞)を受けたら、ギブス氏(父)とギブス夫人(母)を抜け」
倫「余裕っす」
僕「家を飛び出したら、水たまりがある」
倫「今日はフィールド荒れてますからねぇ、監督」
僕「そこはマルセイユ・ターンだ」
倫「やっちゃっていいんすかぁ、監督」
僕「スタンドを味方に付けるのもお前のしごとなんだよ!!」
倫「沸かせてやりますよ、監督!!」
僕「最後、ウェブ夫人がキーパーだ。一対一はお前に任せる。エミリーにしっかりゴール決めてこいっ!!」
倫「任せて下さい監督(号泣)、行ってきます。ゴール決めてきます!!! それで監督を胴上げさせて下さい!!!!」
彼はフィールドに飛び出して行きました。
それ以来の彼の活躍は皆さんのご存知の通りです。
今回の「ガラスの動物園」では、後半43分に投入される選手ではなく
立派なスタメン選手です。
ジム・オコナーという紳士のお客様を演じています。
戯曲には
第1幕 紳士のお客様を迎える準備
第2幕紳士の来訪
と書かれています。
そう「ガラスの動物園」はジム・オコナーを巡る物語でもあるわけです。
ご存知の通りこの芝居は「追憶」の物語です。
なので池田くんとの出会いを追憶してみました。
トムの台詞にこうあります。
「追憶の劇だから、おぼろげで、センチメンタルであって、リアリスティックではありません。」
僕の追憶もどこか、捏造され、更新され、デフォルメされているかもしれません。
が、しかし僕はあの日、フィールドに飛び出していった彼の背中を覚えています。
稽古場では、日々彼の成長をたくましく感じます。
彼の今後の活躍にもご期待下さい。
高橋
↓写真コーナー↓
池田&永宝
稽古場に来てくださった清水明彦さんと。