向き合う限りは、嘘をシカトするわけにはいかない。

だからといって『嘘だろ!!』と言っても、また高度な嘘をついて自分を守ろうとするのは目に見えてる。

だから私は、できるだけ『そうなんだ』のスタンスで、乗りすぎず流しすぎずのスタンスで行くことにした。


とはいっても、対応しづらい奇行もある。




部活中に突然、切ないモードのアキが流し目をしながら

アキ『声が聞こえます・・・泣いてるの?
   深い森の奥。さようなら。さようなら。
   小さな女の子。』



ポエムか?


斜め下を見つめながら、切ないのよ私女優アキ。


凍りつく音楽室。固まる部員。

どうしよう。この話題突っ込みたくない。



アキ『そこにいるの・・・!?
   きこえます。きこえるよ・・・!!
   おいかけて、』


私『アキなんか言った!!?』


アキ『え・・・?』



無かった事にしてやりました。

シカトしたら凍りついた空気のままで彼女の孤独をあおるし、突っ込んだら突っ込んだで嘘をあおるだけなので。


このタイプの奇行は直ぐに止んだ。




なかなか治らなかったのは、病弱で可哀相気取り。

吹奏楽部にキムチの差し入れがあった。←w
すげ~旨かったんだよそのキムチww



アキ『おいしそう。でも私・・・ひとより喉の組織が弱くて、刺激の強いものを食べると血を吐くの。お母さんにもダメって言われてて。遺伝かも。』

私『そうなの??むしゃむしゃ。うめぇ、うめぇ。そんな辛くないよ、食べてみたら?』

アキ『あぁ・・・おいしそう。小さいころから食べたくて食べたくて。』

私『うめっ!!むしゃむしゃ。小さいころから食べたかったなら食べてみたら?』

アキ『でも・・』

私『くえよ。』

アキ『いただきます。・・・おいしい・・・。』


結構食うアキ。もりもりむしゃむしゃ。おいしいもの食べてみんなでにこにこご機嫌。それで終わればよかったのに、あらかた食った後、


アキ『おいしい・・おい、げふっ!!けふ!!こんこん、はあはぁ。げふ!』


うそ臭い咳をしながら、トイレに駆け込んでいった。

血って、それキムチ色の痰じゃね?
とは言わないでおいた。
『うがいしてからフルートふけよ。』って言った。

病弱気取りには手を焼いたけど、これもあまりやらなくなっていった。



小さな嘘は最後までなくならなかったけど、不快じゃない限り、彼女の個性として受け止めることにした。


アキ『昨日おねえちゃんの彼氏に、首にキスマークつけられちゃった♪きゃ』

私『きゃ~ドキドキした?!!』

アキ『きゃ~♪』

私『キスマークって専門用語で吸引性皮下内出血っていうんだよ。』

アキ『もー!!なんでそんなことゆうの~ww』



笑いあえる嘘なら問題なかった。

そのうち、ほとんど嘘もつかなくなって、普通にふざけあえるようになった。
ほかの部員やクラスメイトとも普通にからめるようになった。
私もアキと一緒にいるのは楽しかったし、夏休みに金賞目指して朝から晩まで部活したのも、たくさんふざけて楽しかった。



そのままでいればよかったのに。

つづく。