源氏物語の時代―一条天皇と后たちのものがたり (朝日選書 820)/山本 淳子
¥1,365
Amazon.co.jp

なんとなく図書室で借りてみて、数日かけて読んだ本。

この本の著者、山本淳子氏は京都学園大学の教授だそうで、源氏物語の研究をなさっている。



あとがきにもあったように、まさに「楽しんでその時代の知識を吸収できる教科書の副読本」だった。

平安、一条朝の時代。


・栄花物語、権記、大鏡、枕草子などの史料から

ところどころ、さまざまな史料の一説が載る。

その文章の説明、それから筆者自身の洞察に繋がり、その時代に実際に人が生きて生活していたんだと具体的に感じた。筆者独自の深い文学的な洞察には、人の感情の機微を追及していくことで歴史を紐解くことができるということに感動した。古典文学の研究って面白そう。



・一条帝は賢帝

決して重臣の傀儡などではなく、国を思い、政治に励んだ一条帝。

一方貴族たちとの協調もはかり、その25年もの治世は安定したものだった。

とくに冬の夜、民が震えているというのに自分だけが温かい寝所で眠るのは忍びないと、薄着で縁側にたたずんでいる場面や、愛妃定子と道長との微妙な関係にも始終気を配る場面など、一条の帝の資質が随所で窺える。

そういえば、一条の父親、円融帝の崩御から一年後、忘れられていく父親の死に悲しみを覚えつつも「帝」という立場から素直にそれを表現することをしなかったエピソードにはうわあだった。続く筆者の洞察も相まって、この瞬間に一条に対するイメージががらりと変わった気がする。



・定子と一条

この二人のあいだの純愛は美しかった。仲の睦まじさは読んでいて気持ちよかった。

定子の死ぬ間際の一条へ向けた詩、

同じく一条の死ぬ間際の詩、の関連性は時間が経っても消えなかった一条の定子への愛が分かる。



・彰子と一条

後半、漢文を学ぼうとする彰子が可愛かった。

父親(道長)に裏切られたように感じた彰子の不憫さ。今までの彰子を思えば、それは爆発して当然。



・藤原家

内裏は身内だらけ、結婚も近親婚だらけ。

「血」を重く見る平安貴族。定子と彰子ってライバル関係、のように思ってたけど、実際はそんな単純なものではなかった。お互い顔を合せた事がなく(一条の計らい)、火花を散らすこともなく(この本を読む限り、たがいに激しい気性ではないし)、定子の死後世話をすることになった定子の遺児にも彰子は愛情を感じていたようだし、にらみ合うような仲ではなかった。

藤原家の身内同士の争いは悲しくなるほど激しい。というより、栄華と没落が繰り返され、それが痛ましい。

道長は幸運だったんだね。

しかし栄華を極めれば極めるほど、恨みが増えていくのって恐ろしい。

道長は幸せだったのか不幸せだったのか。




優雅で美しいばかりではないが、平安時代の

心を打たれる一文、エピソードに必ず出会えるはず。読んで良かったと思える一冊だった。