【書評倶楽部】京セラ相談役・伊藤謙介 『クマのあたりまえ』 | SCL トレンドアイテム研究所

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■散文で書かれた珠玉の現代詩

 現代美術や現代詩に接するとき、難解で途方にくれてしまう。一方、動物を主人公とする、7編の短編からなる本書は、やさしい言葉で物語が紡ぎ出され、心地よい。

 著者の人間に対する想(おも)いの深さや愛(いと)おしさが行間にあふれ、深い感動を呼び起こす。

 表題作の「クマのあたりまえ」は生と死の物語。オスグマの死体に遭遇した子グマは、兄グマから「誰でも死ぬ」と教えられ、銃で撃たれたような衝撃を受ける。

 子グマは死なないものを必死で探す。花も木も枯れる。



最後に石にたどりつく。確かに石は死なない。しかし石は歌わない、動かない、寝ない、おなかがすかない、泣かない。だから子グマは「死ぬのは怖いけど、死んでるみたいに生きるのは意味がない」と思う。

 「べっぴんさん」は、美人のチドリの話。ほれぼれする肢体を持ったチドリは、自己陶酔に陥り、自意識過剰となる。


挙句の果てに仲間はずれとなり、南方に飛んでいく渡り鳥の本性を忘れてしまい、厳冬を迎えることになる。

「ショートカット」は、山から街へ降りてきた子ザルが、人間に憧れ行方不明の母を探し歩く物語。


やっと探しあてた母は、場末のバーで人間の男を相手にホステスになっていた。


赤い服を着、黒い靴を履き、茶髪を背まで伸ばし、首飾りが光る。


子ザルは考える。


男たちと戯れている母は、サルの生き方を捨て、幸せなのだろうかと。

 残る4編も、すべて動物が主役の物語である。


それぞれを何度も読み返し考えた。人間が生きるということは、なんと、喜びと寂しさに満ちたことなのか。


生きることと死ぬこと、その狭間(はざま)を照らす奥深い洞察が、やさしい物語の中に潜み、読者に深い読後感をもたらす。

 これは散文で書かれた珠玉の現代詩ではないか。手にとってほしい一冊である。







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