処女作の自由/後宮小説
後宮小説
酒見賢一
- 酒見 賢一
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しかし処女作にしてこの自由さはなんでしょうか。
その後大作「陋巷に在り」や漫画・映画化もした「墨攻」などにくらべても十分読むに値する、軽やかな筆運びです。
第一回日本ファンタジーノベル大賞の受賞作であり、その後のこの大賞の性格と水準を方向付けた作品としても有名な小説で、バブルのころ、メディアミックスとかいいつつ、受賞作のアニメ化を行い、そんなばかげた方針にもかかわらず、奇跡的によくできたアニメになっていました。
私も幼いころアニメからはいり小説を読んだクチです。
さてあらすじは、皇帝の後宮に入る女性を全国から集めるところからはじまり、主人公銀河が女大学で皇帝の妻としての勉強(つまり性技ですね)をして、正妃として選ばれるも、叛乱がおこり、でも銀河は・・・、という話です。
まずでたらめな仮想の中国史のなかにこの後宮の物語を入れ込むあたり、恐れを知らない若人、という感じではありますが、作者の言葉自体に浮つきはなく、その完成度と余裕に驚かされます。
司馬遼太郎や志賀直哉の「小僧の神様」のような筆者も文中にでてきて登場人物を語る技は、反則気味に感じながらも、その肩の力の抜けた感じが新鮮でした。
しかも、主人公の銀河や女学校の友人江葉、反乱軍の軍師渾沌といったキャラへの情が感じられ気持ちのいい読後感です。
銀河の天真爛漫さや江葉の生来の離世感、渾沌の理性的でありながらも自分の直感・倫理のみに寄り添う自由さを、軽やかに書いていきます。
渾沌が、反乱軍として都に入った後、目的の仇をとったあとにまったく皇帝という地位に興味を持たさなかったあたりが、酒見賢一の書きたかったことでしょうか。なんだかいきいきとしていました。
いちいちが史実をにのっとった歴史モノであるようにかのように書きながら徹底したパロディであり、しかもその完成度が高いあたりが、酒見賢一の末恐ろしさでしょう。
この作品が受賞したとき「ファンタジーノベル大賞をこんなファンタジーとはかけ離れた作品に渡していいのか」という意見が合ったそうですが、いやぁしょうがないですよ、面白いんですもの。ほかの者には渡せませんよ。
その後の酒見賢一の活躍も考慮して、その時の審査員に、拍手。
つなさんの記事 を読んで久しぶりに読んでみました。
--追記--
日本ファンタジーノベル大賞 の受賞遍歴とアニメ化の関係をみると
第一回1989年 後宮小説(酒見賢一) 大賞受賞 アニメ化
第二回1990年 大賞なし
楽園(鈴木・リング・光司) 優秀賞 アニメ化
第三回1991年 バルタザールの遍歴(佐藤亜紀) 大賞受賞 以後アニメ化なし
という感じで、楽園が悪いのか、バルタザールが悪いのか、もとよりアニメ化前提の企画を出した読売広告社が悪いのか、2年でアニメ化の企画が終わっていますが、後宮小説だけでもアニメ化する価値はありましたね。
あ、DVDは画像があるのに本はないんですね。
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