毎日の入浴は、車での買い物について母の大好きな日課でした。
夕方や夜は他の家族がいるためゆっくり入ることが出来ないので、
毎日だいたい午後二時頃に入浴していました。
まず、お風呂のお湯が入ると蓋を開けに行き、風呂場が暖かくなるようにします(風呂場には暖める機能は付いていないので)。そして、脱衣室の温風器を入れ、台所の丸椅子を持って来ます。母がゆっくり二階から降りて来ます。私が手伝うのは嫌がるので、私は転倒しないように細心の注意を払います(母は立っては降りれなかったので、お尻をすりながらおります)。
脱衣室でゆっくり母のペースで服を脱ぎます。
洗い場に移動して私が母に掛け湯をします。そして、母が手すりを持ちながら私が母の足を上げてゆっくり浴槽に入ります(母は浴槽の二十センチの段差に足を上げることは出来ませんでした)。母が浴槽に入ると、私は母がさっき脱いだパジャマを椅子に置きます。なぜなら母のおしりは骨だけに等しかったため入浴後に椅子に座って服を着るときに痛がるからです。
母は、いつも入浴すると「気持ちいい!!」と本当にいい顔で言いました。
嬉しそうで私も一緒に微笑まずにはいられませんでした。母と二人で浴槽につかりゆっくりするのがなにより幸せでした。ある程度したら今度は体を洗います。また母の足を私が持って洗い場に誘導します。
おしりを持ってゆっくり椅子に座らせます。それから、体が冷えないように私がシャワーを母に掛けながら、母は自分で洗います。綺麗に足の指まで毎日丁寧に洗います。洗髪は毎日はしんどいので数日に一回でした。頭を後ろに向けるのはしんどく一人で二分も出来ません。
そこで私は座っている母の後ろに立ちます。そうすると母の背中に私の太ももが丁度当たるのです。母は私の太ももにもたれるようにします。そして頭を後ろにして私がシャワーで洗髪するのです。
市販の背もたれがついて介護用の椅子があります。しかし母はどうしても嫌がりました。私達も母が嫌がることはせず、代用できるものは代用品や方法でカバーしました。母もプライドがあります。そしてあまりに介護用具に頼る自分が嫌だったのかもしれません。
- 日野原 重明
- 生きかた上手