月へ、ゆきたい
月へ、ゆきたい 加東 千代

文芸社 2006-04
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 ちょっとしたご縁がありまして、読ませてもらった本です。


 女性らしい瑞々しい筆致で綴られた物語。


 現代版竹取物語異聞とでも言いましょうか。

 お伽噺でも有名な「かぐや姫」。その原文である「竹取物語」を“もしも、かぐや姫が月の住人ではなく、普通の女性だったら?”という設定のもと、紡ぎ出された作品です。

 こういった古典を下敷きに書かれた作品ってときどき見かけます。中でもこのミス大賞作家の浅倉卓弥の「君の名残を」は名作だと思います(これは下敷きに平家物語を使っています)。

 古典ってモノローグって手法がない分、解釈の幅が無限に広がるんでしょうね。元々文学の解釈なんて無限にあってしかるべきものなんですが・・・。まぁ、古典は行間が広いんでしょう。だからこの「月へ、ゆきたい」のような作品が出来たりするんだと僕は思います。


 しかし、この作品、古典が基とは言え、小難しい時代考証的な記述は省かれ、かなり読みやすく書かれています。肩肘張って読む必要はありません。むしろニュートラルな状態で読む方がいいように思います。登場人物を大昔の人として読むよりは、僕たちと同じ現代人として読むほうがしっくりくる部分が多かったです。

 印象に残ったのは後半のかぐや姫とある男性との会話文。ここに著者の想いが集約されているのではないでしょうか?

悲しさ、辛さ、憤り、そして優しさ。あらゆる感情が渦巻くなかで迎えるラストシーン。

 「竹取物語」や「かぐや姫」の持っている物悲しい読後感はそのまま残しているところが良かったですね。月へ帰るって突拍子もない結末より、人間らしいというか女性らしいというか、なんとなく納得できる締め方だったと思います。


 ひとつ残念なのが富士山のエピソードがなかったこと。僕はあのエピソード好きなんです。月へ帰る前にかぐや姫から不老不死の薬をもらった帝がその薬を日本で一番月に近い山の火口に投げ入れるって話です。そして、その山は「富士(不死)山」と呼ばれるようになったって落ちです。まぁ、作風からしてこれを入れるのは無茶か・・・。


 この本を読んで月を見ながら感慨に耽ってはいかがでしょうか。