ストーリ5
【タマゴを100円で買ったら】

(登場人物)
ヤマダ君:AC高校簿記部のエース
サトウさん:AC高校簿記部の
      マドンナ
タナカ君:簿記に興味を持ちなん
     となく簿記部に入部
スズキ君:簿記部の部長


簿記部の部室で、部長のスズキ先輩か
ら簿記の手ほどきを受けるタナカ君。
スズキ先輩の話は、いよいよ、簿記の
根幹の部分に入ってきた。


「タナカ。君ならお店を営業するとし
て、お店の取引をどのように記録して
いくかい?」


部長のスズキ君は、タナカ君に質問し
た。

「う~ん。そうすね。やっぱ、お小遣
帳のように、お金が入ってきとき、出
て行ったときにその金額を記録してい
くんじゃないんスかね・・。」


タナカ君は、腕組みして考えている。

「そう。普通はそのように考えるんだ。
家の家計簿とかはそのようにしてお母
さんが家計のやりくりをしているだ
ろ。」


タナカ君は、自分の母ちゃんが家計簿
と睨めっこしながら、息子の小遣いを
減らさなきゃ、と言っていたのを聞い
てゾッとした時のことを思い出した。

「家計簿のようにお金の出し入れを記
録しただけでは、さっき挙げた2つの
情報が簡単に入手できないのさ。」


ヤマダ君がさりげなく口を挟んだ。

「おっ、さすが簿記部のエース!」
スズキ先輩が合いの手を入れる。

タナカ君は、「カッコつけやがって~」
と内心、ちょっとだけ悔しかった。

「つまり、儲けに関する情報と、財産
や借金、元手に関する情報の2つを得
るためには、家計簿じゃ無理ってこ
と?」


タナカ君は簿記部エースのヤマダ君に
聞いた。

「そうさ。ちょっと家計で考えてみよ
う。仮に買い物に行き、100円払って
卵を買ったとしよう。すると、家計簿
だとこのような記録の仕方になるよ
ね。」


ヤマダ君は、紙を一枚取り出して説明
した。

【家計簿】
支出
タマゴ代100円


「うん。まぁ、こんなんだよな。
でも、これの何が問題なの?」


タナカ君は疑問に感じたことを質問し
た。

「これだと、お金が入ってきた、出て
いった、ということが記録されるだけ
で、収入と支出の差として、いくら儲
けたのかということは分かるんだけど、
じゃあ、財産はいくらあるのか、借金
はどれくらいあるのか、という情報は
入手できないんだ。」


タナカ君は「ふ~ん」って感じの顔を
している。

「つまり、このタマゴを100円で買っ
たという例で、お金が100円出ていっ
たということだけでなく、タマゴが
100円分増えたという記録も同時にす
るということが必要になるのよね。」


「おっ、サトウさんいいね~。」
「サトウ、やるな~。」

タナカ君とスズキ先輩がグッドのポーズでサトウさんを褒めた。

「つまりだな~。」

スズキ先輩が紙に書いてまとめる。

お店を上手く経営するためには2つの情報が必要。

①お店が儲かっているかどうかの情報
②お店の財産、借金、元手などに関す
る情報

(タマゴ100円を買った。)
【家計簿】
支出:タマゴ代100

これだと、収入と支出しか分からない。
つまり、①の情報だけ。

【簿記】
お金が100円出ていった。
タマゴが100分増えた。

これだと、100円の支出という①の情
報と、タマゴという財産が増えたとい
う②の情報が一回で記録できる。



「なるほど~。一度に①儲けに関する
情報の部分と、②財産、借金、元手に
関する情報の部分を記録できるのか。
ということは、元手が増えた原因①と
元手が増えた結果②を記録できるって
こと?」


タナカ君はスズキ先輩のまとめ図を見
ながら言った。

「そうだよ!タナカ。お前飲み込み早
えじゃねーか~!」


スズキ先輩はタナカ君の背中をバンバ
ン叩きながら言った。

「そうさ。①元手が増えた原因を報告
するものが損益計算書で、②元手が増
えた結果を報告するものが貸借対照表
といえるのさ。」


ヤマダ君がまとめの図に書き込みながら言う。
タナカ君は深く頷いた。

           次回へつづく