短文、しかも嫌な話。
小さい頃は外に出る度に、右手を父が、左手を母が握ってくれた。
嬉しくて腕をプラプラさせたり、二人を引っ張ったりしてたのを覚えている。
駅に新幹線、遊園地、お花畑、水族館、大きなホテル。レストランではどちらかが向かいに座ってくれたけど、いつも三人で、両親の間に私。
なのに、何故あんなことを言ってしまったんだろう。
――お父さんとお母さんは手を繋がないの?
父は恥ずかしそうにして、母はいつもと違う笑顔で私越しに手を繋いでいると答えてくれた。
そこで満足すればよかったのに、どうしてあんなことしてしまったんだろう。
――いーや、お父さん達も手を繋ぐの!
大きくてしっかりした、薬指に指輪をはめた手を、大きいけど細い、綺麗な手に近づけた。
大きな手が、それにつられるように綺麗な手に触れて。
瞬間、打音。
夫である男性の手は、妻である女性の手に叩かれ拒絶された。
え、と言った私の手を、母は握ってその場を離れた。
母の顔は見えなかった。でも、父の泣きそうな顔が目に焼き付いた。
その後叱られることはなかった。
でもその晩、父と母は長いこと話し合っていた。
そして二人は離婚した。
それ以来、誰かの手を握るのは怖くなってしまった。
そしたら何故か、両親に謝られた。
悪いのは私の筈なのに。
そして今、手を繋ぎたい相手が出来た。
でも、その手に触れるのが怖い。
きっと両親は、私を愛してくれていたから手を繋いでくれた。
でも、好きだからと手を握ろうとしても、手を握り返してくれるとは限らないことを知ってしまった。
だからいつも、この手は半端な位置で止まっている。
そしてそんな女の子の手を乱暴に握る男が現れる所まで妄想した。
しかし都合が良すぎるその部分を書く気にならなかった。
明日こそは花見を書くんだ。