タイトルの初めにわざわざ”SF"などとついているところがなんとなくB級作品の香りがして、古書店(さすがにお盆はがら空きでした)のビデオ・DVDコーナーで思わず手にとってしまいました。


 ビデオのパッケージのクレジットに”starrinng HIROSHI FUJIOKA。「仮面ライダー1号」「日本沈没(昭和48年版)」「エスパイ」の藤岡弘さん。


 「仮面ライダー」撮影開始からまもなく、スタントマンを使うことを嫌った藤岡さんは仮面ライダースーツを着用してオートバイスタントを撮影している最中の事故で、全身複雑骨折をして救急車で現場から病院へ。おかげで俳優養成所の同期生で親友だった佐々木剛さん演ずる仮面ライダー2号が誕生したのですが、入院生活を終えた藤岡さんはまたスタントマンを使わずに仮面ライダースーツを着用してスタントシーンの演じることを最終話まで続けたという”役者魂を持つ男”。そんな方の主演している映画。もうそれだけでレジへとビデオを差し出しました。




 原案&製作は、80年代にB級映画を専門に創っていたチャールズ・バンドという方なのですが、彼が創立した製作会社”エムパイア・ピクチャーズ”の第1回作品です。




 氷漬けになっていた侍が現代に蘇生し、様々なカルチャーギャップを受ける、というB級映画にありがちなストーリーなのですが、音楽がすばらしくて秀逸な作品にしています。映画におけるサウンドトラックの重要性について、改めて考えさせられました。






ストーリー




 武将タガ・ヨシミツは1552年の日本で、愛する女性を救うために川底に転落し、意識を失い、冷凍になってしまう。


 


 シーンは突然、現代のスキー場。


 アベックのスキー客が


 「ミテ ゴラン アナ トコロニ ホラアナ ガ アルヨ」


 と、とても演技とは思えないようなおかしな日本語を発する。


 (リモコンのストップボタンに指をかけた瞬間、音楽監督リチャード・バンド(この方も「死霊のしたたり/ZOMBIO」「フロム・ビヨンド」などB級映画の音楽担当専門です)の華麗なメロディーがこのシーンというマイナスを帳消しにしてくれて、ストップボタンから指を引かせてくれました。不遇な侍の運命を暗示させるような音楽がとても効果的で、映画の中にグーッと魅き込まれてしまいました)


 その洞窟で氷塊の中で仮死状態になっていた侍が発見され、カリフォルニアに運ばれ蘇生手術を受けた後、現代をさまようことになる・・・。


 
こころ・うつ・鬱-SFソードキル 2




 戦国武将タガ・ヨシミツがTVや自動車に脅えるカルチャーギャップを描いたり、スシ・バーにいる彼を見た白人女性が「あれ見て、三船敏郎よ!」などと興奮するところが笑わせてくれました。


 でも、ぼくがこの映画に感じた魅力は、現代に蘇ってしまった(蘇った、のではなくて)侍の悲哀です。ヨシミツは大都会の夜景を見て自分が昔生きていた戦国時代とは違うことを知り愕然とします。でも戦国時代も現代も同じ戦いの場であることを徐々に悟っていくのですが、大きな違いは知らなかったのです。


 それは彼が我が身を守るために取った手段が、現代では受け入れられないことでした。


 老人をカモにするストリート・ギャングと対決。特にバイクで突っ込んでくる奴を一発の居合い斬りで決めます。


 このシーンが、もうのけぞってしまうくらいカッコイイのですが、現代ではこれは殺人なんですよね。


 侍にとってのルールも言葉も通用しない最悪の戦場で、ヨシミツは


 「ここは何処じゃ」


 「うぬら何者じゃ」


 たわけたことをするな」


 など、心の迷いを素直に吐き続けるのですが、現代の大都会では、ただむなしく響くのみ。ルールも言葉も通用しないヨシミツにとって、ますます孤立し、悲哀な姿が次第に色濃くなっていきます。


 ぼくが、日本とニューヨークのカルチャー・ギャップを経験しているからかもしれませんが、ヨシミツに感情移入してしまってぐっとこみあげてくるものがありました。


 


 ヨシミツをなんとか守ろうとするジャーナリスト、クリスが、戦国時代でヨシミツが愛していた娘の姿とダブリ、悲しい運命が再び繰り返されようとします。


 ヨシミツにとって二度も同じ悲しみを味わうことになるとは・・・。


 


 ラスト・シーン。ヨシミツが再び死を悟った時に、日本刀を天にかざしクリスに笑みを浮かべて最期の言葉を残します。


 「二度と生き返りはせん。武士のきまりじゃ」


 恥ずかしながら、このラストシーンで号泣してしまいました。


 ハリウッドのB級SF映画でこんなにボロボロに泣かされてしまうとは・・・。




 なんでこんなにヨシミツに感情移入して泣けてしまうのだろうと冷静に考えてみたのですが、ヨシミツというキャラクターが、いわゆる変な日本人として描かれていないからではないからかなと思いました。


 テリー・ギリアム監督の「バンデッド」なんかは完全に日本人をバカにしているし、ハリウッド製ニンジャ・ムービーやサムライ・ムービーを見ると、アメリカ人が侍という存在をものすごく曲解してしまっているんですね。


 以前、藤岡さんが何かのTVで、自分がハリウッド映画で侍の役をやったときにシナリオの中で侍を間違って描いてある部分を指摘して書き直してもらった、という話をされてましたが、それがこの作品だったのでしょう。




 B級映画というカテゴリーに置かれるには、あまりにも惜しい大傑作でした。


 
こころ・うつ・鬱-SFソードキル 1






 


FANTASTIC ! BOX (6枚組) [DVD]

¥24,800
Amazon.co.jp

 DVD化されたもので最も入手しやすいのは残念ながら、上記BOXセットに含まれているもののようですが、単品で入手したい方はサイドバーをご覧ください。