この所忙しかったので更新がなかなかできませんでした。では本編をどうぞ。


森の妖精が二人に近づいてきました。姿は、小さな羽のある小人さんでした。
「こんばんは」
月の神様が声をかけました。
「こんばんは、月の神様」
妖精たちはお行儀よく挨拶し、興味津々といったまなざしで王女様を見つめました。
「初めまして」
「王女様お久しぶりです、昔王宮にいたんですよ」
年かさの妖精が話しかけました。この妖精はあちこち出歩き、見聞豊かな者でした。
「王女様だー」
幼い年齢からティーンエイジャーまで色々な妖精が揃っています。

「月の神様に恋人ができたと噂がここまで流れていますよ」
「ええ、そうなんです。王女さまとお付き合いしています」
「宜しくお願いいたしますね」
妖精たちは羽を広げてダンスでお祝いしてくれました。その様子の愛らしいことといったら!本当に可愛いのです。

月の神様は森の奥へと王女様を誘いました。
昼間とは全然違う森の様子に王女様は戸惑いました。
でも……なにかが楽しそう!新鮮ですしワクワクします。
森のどこかで梟が鳴いています。すっかり夜だということを忘れてしまいそうです。
「意外と賑やかなんですね」
「夜のみ起きる生物もいますからね」
森のおくには腰掛けられる場所があるので、二人はどんどん歩いて行きます。
普通だったら来れないでしょうけれど、月の神様が一緒というだけで王女様は心が躍るような感じを受けました。涼やかな瞳が神秘的な月の神様、また一つ好きなポイントが増えていくようでした。

<次に続く>
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湖畔はとても静かでした。二人は水面を見つめていました。
「本当に水が綺麗なこの湖、昔から変わらないのですよ」
「透き通るような感じが素敵ですよね」
王女様が湖を覗きます。隣には月の神様が立ちました。
魚も住んでいるようで時折ぽちゃんという音がします。それ以外は特に音もせず、静かな森の中でした。梟の鳴く声がします。
「梟も可愛い声ですね。私、鳥が好きなんですよ」
「梟はとても賢いですよ。今度梟の置物かなにかをみつくろってきます」
「まぁ、指輪だけで十分ですのに」
「私が贈りたいのです」
微笑する月の神様をみて、王女様も微笑みました。
「私から何かお贈りしても構いませんか?」
「勿論です」
人間から貰う事を禁止する決まりは神様にはありませんでしたから、月の神様はワクワクとしながら尋ねました。
「どんなものなんですか?」
「沢山贈りたい物はあるのですが、指輪のお返しに小さな剣をと思います。ペーパーナイフとして使えそうな物を探しています」
「それは素敵ですね。その時がきたら有難く頂戴致します」
この国では指輪のお返しは剣と決まっていました。小刀や戦士が使うような剣までなんでもいいのです。ペーパーナイフを贈る女性も多いです。王女様は自分の持っているペーパーナイフと対になるような品を探していました。握る部分に木の葉の化石が組み込まれたものです。王女様のお気に入りの品でした。
「私のペーパーナイフと対になりそうな物を探していますの」
「そうでしたか、それは嬉しいですね。楽しみにしています」
しばらく湖を眺めていた二人でしたが、どちらからともなく座りませんかとなり、景色の良い場所に移動して周囲の風景を楽しみました。王女様は来た事がない場所だったので、本当にここに来るのを楽しみにしていたのです。
ちらっと森の方に光る何かが見えました。
「月の神様、向こうにきらきら光るなにかが見えていますわ、あれはなんでしょう?」
王女様の視線の先を月の神様はみました。小さな光がいくつか見えます。
「小さな森の妖精ですよ。好奇心旺盛なので近づいてきたみたいですね。普段は森の奥にしかいないのです」
続けて月の神様は言いました。
「やはりあなたの瞳は普通の人には見えないものをうつすようになってきたようですね。クレアボヤンスが成長しているのでしょう」
「そうなんですか?この力が上がるとどうなるのですか?」
「この世ならざる存在を見る事ができるようになります。慣れれば意志の力でオン・オフできますから四六時中みえると言うことになりませんよ、安心して下さい」
王女様はほっとしました。死者の霊魂などを見る事になるのが怖かったからです。よくよく話を聞いていると、自分で視える者を決められるとのことでした。ポジティブな光の存在だけ見る事に当面はしておき、神官として修行を始めたら死者の霊魂を見るようにと勧められました。
神官で死者の霊魂がみれないと確かに困るので、それには頷けます。
「少しホッとしましたわ。やはり死者の霊魂はなんとなく怖いですもの」
「救いを求めている場合もあれば、怨念を残している場合もあるので、みやみやたらに視ないことも大事ですね。見えても素知らぬふりをするのもアリですよ」
「視えていないフリをするんですの?」
「そうです」
しばらく月の神様の教えを聞き、頭の中で王女様は整頓しました。すんなりと頭に入るのは月の神様の説明が上手だからでしょう。勿論王女様の理解力も必要ですが。
「良く理解することができましたわ、有難うございます」
「どういたしまして」
月の神様が手を差し出しました。
「折角だから森を見ていきませんか」
「そうですね。妖精さんまだ起きているかしら……?」
「多分起きていると思いますよ、では行きましょう」
二人は湖畔から森へと移動していきました。この先に森の妖精がいるのかと思うと、それだけで王女様は楽しみになりました。

<次回へ続く>
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夜空の星々は美しく、時折流星が流れます。月の神様の端整な横顔をみて王女様は少しどきどきしました。今までは神様という視点で見ていたので気にならなかったのですが、よくよく見るとすごく格好いいことに気がついたのです。
「月の神様はとても格好いいのですね。ちょっと見とれてしまいました」
「そんなことないですよ。あなたの方が素敵ですよ。みていると幸せに思いますし、こうして一緒にいるだけでとても幸せなのです」
月の神様の恋人の噂は神様の世界でも広まっていました。星の神様にはすぐ話しました。何事も大げさに喜びたがる太陽の神様には言い出しにくかったのですが、一応話しました。女神や妖精、精霊たちの女性からはため息がでました。どの女神達も月の神様を想っていたからです。しかも相手は人間です。限りある命の人を選ばれたことに皆はさらにため息をつくしかなかったのです。

王女様は月の神様をみつめ、嬉しそうな顔をしています。
「そういえば面白いことにこの指輪、月が出ると青みが増すんですのよ。素敵ですわ」
「そういえばムーンストーンにはそういうタイプの子がいますよ。月が姿を変える度に青みが増したりするので見ていて楽しいかもしれませんね。私の力を授けやすいのもありますが、言い伝えにそって初めての石を選んだのです」
「こんな子が来てくれるなんて、私は幸せですわ」
優しく指輪に触れて、王女様は微笑みました。湖につくまで石の話で盛り上がり、今度鉱山に連れて行ってもらえる事になりました。なんでも自ら光る不思議な石があったり、妖精が宿る石があるというのです。月の神様はお話の仕方も上手です。分りやすく簡単な言葉で相手に伝えます。勿論難しく話すこともできますが、自然な言葉遣いを選んでいました。
それにしてもどうして一緒にいるだけで、こんなに嬉しいのかと月の神様は思いました。月の神様は、神々の中でも古くから存在する神です。どんなときも落ち着いているというのが自分の評判ですが、今のこの状態といったら、周囲の神様が驚くでしょう。どきどきわくわくすると同時に心の底から愛しているという気持ちがわき上がります。これもいつか王女様に伝えようと月の神様は思いました。
「いつみてもこの湖は綺麗ですね」
「ええ、本当に。あなたとここを訪れられた事が何よりも嬉しいですわ」
「私もです。あなたが喜んで下さって嬉しいです」

湖についたので雲からおりて、二人は水面を見つめました。本日も月の光をうけて綺麗に輝いています。
「ここのお水で顔を洗うと美人になるって本当ですか?」
「お肌が引き締まっていいと女神達が言っていましたね」
「わぁ、女神様がいうならきっとそうですね。今度はボトルを持ってこよう。綺麗になりたいですもの」
月の神様は微笑み、王女様を抱きしめて耳元で囁きました。
「あなたは今のままで十分美しいですよ。湖の水を使えばもっと美人になるでしょうけれど周囲の男性からの視線が私は気になります……私だけに心を向けて下さいね」
「あなた以外の男性など目に入りませんわ」
少しためらいましたが勇気をだして王女様も月の神様を抱きしめました。
「大好きなんですの、あなたが」
「私もです」
二人は抱き合いながら相手の顔を見つめました。自分が愛した人の全てが愛しく思えます。月の神様は王女様の額にそっとキスをしました。
「愛しています、王女様」
「いつまでも一緒にいたいです。私も月の神様を愛しています」
その瞬間、王女様の指輪が光り輝きました。本当に愛し合う者同士の絆が深まっていくと光輝くという伝説は聞いたことがあります。王女様は驚きました。
「種族もこえて愛し合えるなんて素敵」
微笑む王女様の言葉に月の神様も応えました。
「本当に素敵ですね。あなたでなければならなかったんだと思います」
そして月の神様はある言葉を王女様の耳元で囁きました。
「私の真正の名前です。神様でも知っている人は少ないですが、あなたには打ち明けておこうと思います。困った時は呼んで下さい。いつでも側に行きます」
「私の名前もお教えします……何か出来るわけではないですが、覚えておいてくださいませ」

この世界の殆どのものは二つの名前をもっていました。普通の名前と、魔術的なもう一つの真正の名前。真正の名前は一生を共にする相手にしか打ち明けないものなのです。それを月の神様から教えて貰ったことに王女様は嬉しさを感じていました。本当に自分をえらんでくれたのだと喜びました。もう一度相手を抱きしめて、二人は体を離しました。
湖のほとりに座り、色々な夢や、やってみたいことなどを王女様は話します。いくつかは月の神様と一緒でかけてみたいというものでした。その場所を頭の中にメモしながら月の神様は愛情を伝えます。どれだけかけても伝えきれない想いですが、言葉を尽くしました。王女様は喜んでいます。それをみてさらに月の神様は幸せになりました。素直な心の王女様を更に愛しく想いましたし、国の守護神として誇りに思いました。小さな国ですが本当に心が清いものばかりなのです。中には罪を犯すものもいますが、大半がちゃんと反省できる人々でした。それだけ神様と人々の間の距離は離れていなかったからかもしれません。

<次に続く>
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王女様は夕暮れのバルコニーで一人佇んでいました。右手の薬指の指輪は母に気付かれ、誰なのかと尋ねられました。とても素敵な方で、申し分ない方です。とても賢くて優しい方です、という王女様の答えに母である女王さまは満足しました。
どこの誰か分らないけれど、自分の信頼している娘の選んだ相手を信頼することに決めました。森の中の湖に行ったことを聞き、女王様は喜びました。誠実そうな相手です、いつか会わせてねと声をかけました。勿論内心は心配もありますが……きっと大丈夫でしょう。王様はどこの誰なのか知りたがりましたが、女王様が聞かないようにと言うので我慢しました。ただそういう相手ができたことを喜んではいたので、今日はちょっと豪華な食事にしようと言いました。今はその食事を待っている時間でした。

シェフが腕をふるいとびきり美味しい食事ができあがりました。花園からは薔薇をつみテーブルを飾ります。白いテーブルクロスが料理を引き立てます。

「王女様、お食事の時間でございます」
女官が呼びに来ました。頷いて王女様は食事に向かいました。先の王様と女王様が座っていました。
「お待たせしました」
そういう右手には輝く指輪。これを贈れるのはかなりの資産家だなと王様は思いました。なにしろ月の神様が鉱山で一番いい石を選んだのですから高い価値があるのは当然なのですが、細工も非常によいのです。
「王女や、どうやら良い石を贈って貰えたようだな」
「はい。いつかご紹介します。素敵な良い方です」
「もう湖にも行ったそうよ」
「そうか、湖に行ったのか」

若い頃王様は女王様をエスコートして湖に行きました。その頃の思い出が蘇ります。若い女王様の顔をちらりとおもいうかべ、今の女王様を見つめました。昔と同じく美しい顔に少しつり目の瞳。当時の若い頃の王様が気品があると思ったものです。
「私の顔になにかついていますの?」
「いやいや、昔に二人で湖に行ったことを思いだしたのだよ」
「まぁ、懐かしい」
女王様はその頃の指輪をまだ大事に持っていました。結婚するときには別の指輪が用意され、日常ではそれを身につけていました。
「今度私もあの子を出してこようかしら。宝石箱に眠らせておくのは勿体ないわ」
女王様に贈られたのはサファイアでした。いつまでもあなたに誠実でありますという王様の言葉を女王様は思い出していました。
「そうか、それもよいかもしれん。懐かしい」
若い王様は宝石屋に何度も王宮に来て貰い、その石を選んだのです。当時はまだお腹もでていない格好良い王子様だったのですが、今は少しお腹がでていました。
「若い頃は懐かしい。なんど宝石を扱う者に来て貰ったことか……王女の相手もそうかもしれないのう」
「そうかもですね。本当にお気に入りの指輪になりましたわ」
「その相手をいつ紹介して貰えるか楽しみにしておるぞ」
「はい」
王宮は割と自由な雰囲気で、恋愛も自由でした。以前に結婚した王女様の叔母は、商人と結婚して今はお店でも夫を助けているという話しです。ただ王女様は第一王位継承者。どういう相手か素性は知りたい王様でしたが、王女を信頼しましょうという女王の声に従っていました。
「ごちそうさまでした」
今日は仔牛のステーキ。王女様の大好物です。猟師が今日持ってきたものでとても美味しいものでした。デザートにと出されたのはクイニ-アマン。王女様の好きなお菓子の一つでした。
「そろそろ部屋に戻りますわ、また明日。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
「また明日ね、おやすみなさい」

王女様が部屋に戻った後、二人はふうとため息をつきました。恋愛は自由でいいですが、結婚となると……その相手が相応しいかどうかは気になります。先日の医者が王様は気になりました。旅の医師のわりには上品でいい身なりをしていました。女王様にそれをいうと、人は身なりでは決められませんという言葉が返ってきました。見守るしかないという結論を二人は出し、部屋にと戻っていきました。

王宮の中でも王女様の指輪は話題になっていました。どんな方なのだろうという話は皆思っています。王女様はよく街にも行きますから誰と恋愛しているか分りません。身分ある人ではないかとも噂になりました。そうでなければあの指輪は贈れません。

その頃王女様は月の神様をまってバルコニーに佇んでいました。少しずつ満月に向かう月です。指輪に目をやると、青いシラーが強まっています。そろそろ時間です。今日も小鳥で来るのかもしれないなと思っていたら、いつのまにか青い小鳥が肩に乗っていました。
「まぁ……可愛らしい。月の神様ですか?」
「見抜かれましたね」
すぐ変身をといて月の神様は現れました。
「何か指輪の事は話題になりましたか?」
「母が気がついたのですが、そんなに聞かれませんでした。秘密っていいたかったのにチャンスがありませんでしたわ」
「いつかはご挨拶しなければなりませんね」
月の神様は少し考えていました。神の花嫁になった場合、王位を継ぐことはできないのでどうすべきなのかを考えていました。王女様は一人娘なので王位を継がなければできません。あるいは神官として働いている王女様の従兄弟を王宮に呼び戻すことになるかもしれません。なに、まだまだ時間はあるのです、ゆっくり考える事にしましょう。今は可愛い恋人と一緒にいることが大事です。
「今夜は何処へ行きましょうか?」
「また湖がいいですわ」
王女様の手をとり、雲にのって二人は夜の逢瀬を楽しむことにしました。

<次に続く>
その日は大変綺麗な月の日でした。そろそろ寝る時間ですが、王女様はこれからが期待している時間です。月の神様は眠る頃にいらっしゃるのですから。普段より緊張して体がこわばっているので、王女様は少し軽い運動をしていました。そんなときに窓辺から光をはなつ小鳥が部屋の中に入ってきました。

「まぁ可愛い」
王女様は手を差し出しました。小鳥が側に来たと思った瞬間、月の神様が現れました。
「こんばんは、王女様」
「まぁ、お会いできて嬉しいですわ。こんばんは」
「お約束の時間がそろそろでしたので、お迎えにあがりました」
「はい」
月の神様は王女様の手をとり、バルコニーへと導きました。そこには二人分座れるような雲があります。
「こちらに乗って下さい」
「はい」
月の神様と王女様は難なく雲に乗りました。雲からは良い香りがします。少しずつ雲が空の方へと移動していきます。

「今日は、夜空色の瞳についてある程度お話ししようと思っていますが、いかがですか?」
「はい、お聞きしたいです」
「その後は色々なお話をしましょう」
月の神様は微笑しました。王女様だけに向けられたそれはあたたかく、そして愛情深いものでした。
「その瞳をもつ人は4つの霊能力が高まっている証拠なんですよ。身の回りで何か変わったことは起きませんでしたか?」
「そうなのですね。私は神殿に行くと光や風を感じたりというのは昔からありましたけど、最近は人の周囲に色が付いているのが分るようになりました。見えるときと見えないときがあります」
「その色はその人の今の状態を表しています。感情が強くなると光も強くなります。神官として訓練を積んでいくと安定して見れるようになりますよ」
王女様はしばし考えてから言いました。
「月の神様の周りは金色の光なのですね」
月の神様は驚きました。神様の光そのものを見ることができる人間は限られています。能力が高くないと見る事ができませんから、潜在能力の高さが伺えました。

「あとは精霊と話をしたりすることもできます。また光の高次元のスピリットから直接考えが降りてくることがあります。これは無意識では皆受け取っているのですが、起きたときに継続して覚えていられるかどうかは能力次第です」
「妖精達とも、いつかお話しできますか?」
「できるようになりますよ」
「あとは寺院や墓場など、人の死に関わるところでネガティブな感じを受け取るかもしれません。また神様に守られているような気配を感じる場合もありますよ。これらの4つをあわせると、最高神官になれるだけの実力を作る下地になるんです」
最高神官は、風と話し、人の色が見え、瞑想すればすぐ良い案が浮かび、神様の心を感じられるという人物でした。もう70歳になる老人ですが、元気いっぱいで王女様も可愛がって貰っていました。
「なるほど、最高神官はクレア……なんとかを磨いたと仰っていました」
「クレアボヤンスが瞳、クレアオーディエンスは耳、クレアコクニザンスは頭、クレアセンシェンスは心。この4つそろって能力が高いと、夜空色の瞳になるんです」
王女様は頷きました。この国の霊力たかいものには何度かあったことがありますが皆、夜空色の瞳でした。

「神様は全員夜空色の瞳ですか?」
「殆どがそうですが、違う方も時々。神様になると目の色は関係無くなるんです」
月の神様は色々とお話をしながら雲を神殿の方へと動かしていました。神殿を見下ろせるところまできて、月の神様は口を開きました。
「神殿から聖なる気を感じませんか?」
「昔とは違う何かを感じます。子供の頃は分らなかったけど、今だと……神様達のお力が降りてきているのを感じますわ」
上出来です、と月の神様はいい、次にどこか行きたいところはあるかと尋ねました。
「もし素敵な人が現れたら行ってみたい場所があったんです。ここの神殿からずっと南にいって、森の中にある湖に行ってみたいですわ」
その湖はよく澄んでいて綺麗な水をたたえておりました。恋人同士になったらここに行って恋が長く続き愛へ変わるようにと皆願いをかける場所です。王女様は月の神様との恋が長く続くといいなと感じていたのです。もっと相手を知りたいと思いましたし、自分の事を知って欲しいとも思いました。
「ああ、あの湖ですね?」
瀟洒な手が指さす先は、恋人同士がよく行くあの湖です。頷くと雲が移動し始めました。
「凄いわ、都があんなに遠くなってる」
「離れていますしね。雲の上もなかなか快適でしょう?」
「ええ、とても」
王女様は隣に座る月の神様をみて微笑みました。こんな素敵な方が自分の事を好きだと言ってくれるのはなんて幸せなんだろうと思いました。その思いを口に出すと、月の神様も自分も同じ心持ちだというので二人は顔を見合わせて微笑みました。色々な日常の話しをしているうちに湖に着きました。

「まぁ、本当に綺麗!噂通りの場所なのね!」
二人は湖の側で雲から降り、周囲を見渡しました。大丈夫、誰もいないようです。水の中に手をいれると本当に澄んだ水です。月の神様は水をすくって飲みました。王女様も続いて水を飲みます。そして月の神様は懐から小さい箱を取り出しました。
「こちらは人間界の品物なのですが、あなたに似合いそうでしたので」
ワクワクしながら王女様は小箱をあけます。
「まぁ、素敵!これは恋人に初めて贈る石でしょう?」
「そうですよ。今日の為に選んできました。よろしかったら指輪をつけてあげてください」
「勿論です!嬉しいですわ」
王女様は思わず月の神様に抱きつきました。微かにかおる香りは気品がある感じで穏やかでした。月の神様の心臓の音が少し聞こえます。しばらくしてから王女様は自分が大胆な行動をしてしまったことに気付き、体を離しました。

「すみません、嬉しくてつい」
「いえ、……恋人だからいいんじゃないかな」
そういった月の神様も少し照れているような感じで、恥ずかしそうにしています。恋愛などしないだろうと思っていたのにこんなに可愛くて素敵な人が現れたので、人生とは不思議なものです。どんな女神や妖精などにも心を動かすことはなかったのに、王女様だけは特別でした。
「指輪つけてみました。似合いますか?」
恋人に貰った指輪は右の薬指にするのがしきたりでした。王女様は右の薬指に美しいロイヤルブルームーンストーンをはめて微笑んでいます。人間が贈るとしたら相当なお金持ちでないと買えないランクのものだということは知らないので無邪気に喜んでいました。月の神様は自ら鉱山に行き、一番素晴らしい物を指輪に細工したのです。
「細工も素敵。繊細でいいですわ。毎日身につけます。寝ているときも外しませんわ」
「私と二人きりの時だけでもいいのですよ。ご両親が気になさるのでは」
「秘密!で通します」
いたずらっぽい微笑みの王女さまにつられて月の神様も笑いました。
「秘密は誰でもあるものですしね」
その後は二人で色々はなしました。王宮のことや両親たる王と女王の話、飼っている小鳥の話し。王女様が色々喋って主に月の神様は聞いていました。

「あなたを知ることができて嬉しく思います。王宮もなかなか賑やかなのですね」
「ええ、そうなんです。たまに城を抜け出したいなと思ったこともあったのですが今夜叶いました」
ふふっと笑う王女様。こんなに恋人の笑顔が素敵だとはしらなかった月の神様はみとれてしまいました。とても幸せな気持ちであることを告げ、月の神様は王女様を抱きしめました。
「ありがとう、あなたと出会えて良かった」
「私も月の神様と出会えて良かったです」
二人はお互いの瞳をみて、同時に微笑しました。
「さぁ、そろそろ帰りましょう。夜風が寒くなる頃です」
「はい」
二人を乗せた雲は全速力で王宮に向かいます。王宮は寝静まっていて、しんとしていました。王女様は雲から降り、自分の部屋に立ちました。月の神様はそれを見届けて、言いました。
「また明日、同じ時間に」
「はい、お待ちしております」
こうして二人の時間は終わりを告げ、王女様はすやすやと眠りにつきました。月の神様はそれをこっそり見届けてから天に戻りました。

<続く>