/パイロット育成計画/

―この開発計画に合わせて、パイロットの育成も重要な案件となった。
いくら高性能を誇る新型機とは言え、絶対物理防壁に対応した操縦技術が無い
限り、

まともな挙動など望むべくも無かったからである。


開発陣は、早速この事をあさぎ藩王へ打診。急遽、各部隊より精鋭を召集し、

実験部隊が編成される事となった。


主軸は、土場藩国が誇る魔術的舞踏子達と、メードガイホープの一団であった


…後者が精鋭という事について、異論反論はままあろうが、そこはまぁ…お目こぼし頂きたい。
愉快なのは見た目だけで、一度兵器を駆って戦場に立てば、

敵からは畏怖を集めるに足る存在となるのだから。…多分。


とにもかくにも、こうして召集された精鋭達は、RBを乗りこなす為の訓練に明け暮れる事になった。
その訓練とは…


―“スイカ割り”であった―

…別に、決してふざけている訳ではない。


訓練の一環として行う以上、ただのスイカ割りであるはずもなかったのだから


北国である土場藩国において、南国の果実であるスイカは貴重なので、

標的には同じくらいのサイズの雪だるまが用意され―


…しつこいようだが、これはレクリエーションではない。れっきとした訓練である。


そして、部隊員に配布されたのが、首から上を完全に覆い隠すとてつもなく頑丈なヘルメット

(視界は完全に封じられ、外は全く見えない)、
耳栓にアイマスク、動きを妨げない程度に軽装甲が仕込まれた防護服に、

極めつけは重さ10Kgはあろうかという、鉄製の棒であった。
もちろん、生身の人間に直撃すれば大怪我は免れず、下手をすれば即死しかね
ないような凶器である。


―もうお分かり頂けた事と思うが、これは多人数がうごめく擬似的な“戦場”

の中で感覚器官をシャットダウンされながら目標を攻撃する為の訓練であった


更に付け加えるのであれば、これは目標に近寄る相手がいるならば、“敵”として排除するのも

訓練の一環であった。


…ハタから見てると面白い趣向だ、という趣のものでは断じて無い事を、

お読み頂いている皆様にしつこいと怒られようとも、断っておく。


更に、雪だるまの中には極微弱な電波を発する発信機が仕込まれており、

部隊員の腕には電波が遮断された瞬間、
手にした棒を取り落とす程度に軽い電流が流れる事で訓練の終了を報せるリストバンドがつけられた。


訓練は、そのつど場所を変えて行われたが、常に可能な限り広い場所が選定された。

もちろん、参加者はランダムに配置される。


―さて、この訓練の結果を見る前に、少し考えてみてもらいたい。


ハタから見てる者にとっては滑稽にも映ろうが、放り込まれた者達にとっては

無間地獄も良い所であっただろう。
何せ、見えない、聞こえない、匂いすら無く、肌に当たる空気すらほとんど感
じられない状況にあって、

周囲の状況はまるで分からず、挙句の果てにとんでもない凶器を手にした“敵”がうごめく―

筆者ならば、1分と持たず裸足で逃げ出すだろう。

初体験であれば、普通は身動きもとれず、立ち尽くしてしまいそうな状況に思える。
訓練を指示した者たちとて、それは理解の上であった。


―ただ、その機体特性が、それ程の荒療治を必要とする環境を要求しただけの事である。


その前提を踏まえた上で、蓋を開けてみれば…


驚くべき事に、実験部隊はこの状況に対応してしまったのである。
当初こそ覚束ない足取りであったが、それでも目標へ向けて少しずつではある
が、

参加した部隊員全員が移動しえたのである。

これには、訓練を指示した側も驚くほかなかった。


―実は、その原因は至極単純なものであった。


実験部隊の彼らは、初体験ではなかったのである。
彼らは、自分達がかつてどこかで経験したのかもしれない、

RBというものの搭乗特性を覚えていたのである。


―否、それは最早、身体に刻み込まれたものだと言った方が正確かもしれない
ともかく、それが舞踏子とホープという存在なのだという事を、

まざまざと見せ付けられる結果となった。

こうして、驚くべき速度で上達した彼らは、開発計画が半ばに差し掛かる頃に

目標を正確に捉えるどころか、
訓練中に参加者同士である程度の戦闘訓練を行える程度にまでなってしまうの
であった。

予想以上の成果だったが、実験部隊である以上、上達が早いのは諸手を上げて喜ぶべき所である。
ましてや、この訓練が不可能であれば、機体が完成すれどパイロットが揃わな
い恐れすらあったのだから。


ともあれ、パイロット育成計画は、ここに一応の成功を見たのである。


彼らと、彼らが駆るRBは如何なる戦果によって、戦場を彩るのか。

全ては、これからの歴史が証明する事となる―。


/文責:吾妻 勲@星鋼京/