無くした舵 | N e w  Y o r k B l o w -NYでもタコ焼きを焼く英国人へ-

無くした舵

吹奏楽界では有名なアルフレッド・リード氏、
安売り商法の雄・ダイエーの中内功氏、
最近訃報続きで、どうも滅入る。
そして後藤田正晴氏が91歳で亡くなった。

沢山の惜しまれる方が居る中、
私の中で、この方だけは別格の存在だった。
政治部記者の友人が「肺炎で」とメールで知らせてくれ、
氏の訃報に接した時、正直、日本は終わったと思った。
そして昔取材した時の事を思い出した。

当時未だ国家を動かすような政治家に会える立場になかったのに、
或る方の紹介を得て会える事になった。
或る事に対しての意見を伺う為の取材であったが、
時に頓珍漢な質問に対しても落ち着いた面持ちと声色で、
判りやすく色んな事を説明して下さり、
『カミソリ』のイメージは一気に払拭された。

これほど政治家にうってつけの人は居らず、
戦後の日本をミスリードする事無く、
ここまで引っ張ってきた人だ。
抜群の政治センスと判断力の右に出る者は居なかった。
金と力の使い分けが綺麗に出来、
且つそれらの使い方も的を射ていて正確だった。

田中・大平・中曽根・宮沢各首相の下で、
常に2番手、3番手に位置して決してトップにはならず、
鋭い洞察力と歯に衣着せぬ発言で曖昧さを出さなかった為、
「カミソリ後藤田」との異名をとった。
『自衛隊の海外派遣は「アリの一穴」』と戦前の実体験から懸念し、
ペルシャ湾への掃海艇派遣問題では首相に苦言を呈し、
派遣を中止させたリベラルさも持っていた。

何よりもすごいことは、96年に政界引退した後でも、
誰もが教科書にしたがった政治家。
特に危機管理に関しては引退後も敏腕を振るっていた。
決して権力に物を言わせて驕るのではなく、
皆、敬われ、乞われての事だった。

国内世論に対しての政治だけでなく、
世界に対しての政治としての面をも尊重し、
立ち振る舞える唯一の政治家だった。
先の選挙では小泉圧勝となったが、
今後の憲法改正論や自衛隊の海外派遣については、
より一層話し合いを求められる、
国家としての最重要項目なだけに、
氏のような国家のストッパーが無くなってしまうのは、
本当に不安を掻き立てる。

憲法9条の改正論などは、
世界での『日本』という国に対しての見方、
意識を一掃する事になるやも知れない一大事なのに、
氏が亡くなった事によって暴走機関車・小泉号を、
誰が止められるのかが一番の不安材料だ。

『靖国問題勉強会』で講師として出席し、
「首相に参拝の再考をお願いしたい」と力説。
きっとアメリカと歩調を合わせた時には、
既に遅かったんだろうけど、
日本には後藤田氏、アメリカにはパウエル氏が居た。
だが国益よりも自分の我を通す事の、
デメリット計算が出来ない首相を持つ日本は、
一体何処へ流れ着くのだろう。

合掌。