6年ぶり、14枚目のオリジナル・アルバムですが、それほどの知名度があるわけではないのに、最近あちこちで"The Birds of St. Marks"を耳にします。 利用した全日空の国内線の機内番組でも、この曲がプログラムに組み込まれていました。
そして、来年3月の来日のスケジュールも発表され、ティケットも発売されました。 東京公演は都合3回組まれており、会場は何と渋谷のBunkamura オーチャード・ホールになります。
2009年11月に観たライ・クーダーさんのニック・ロウ(Ry Cooder & Nick Lowe)とのジョイント・ライヴ以来です。今から、愉しみでたまりません。77年の初来日は、現在は存在しない、東京厚生年金会館から始まったわけですが、単独では2008年以来となります。
また、2部構成でたっぷりと新旧取り混ぜた曲が聴ければいいですね。
私は東京公演の3日目、3/13(金)を予約しました。 彼のお気に入りの地は広島のようで、今回も最終日、17日がブッキングされています。
前回のVol.1(ここ↓↓)では1曲目の"The Birds of St. Marks"のみ取り上げたので、今回は残りの楽曲の印象とトピックスについて、簡単に書いてみます。 とは言うものの、あれから2週間以上も空いてしまいました。 ほぼ、毎日ジャクスン・ブラウン漬けになっていました。時折、アクセントの意味で彼の旧作も聴いております。
◇ Track listing ***** ;
All songs by Jackson Browne unless otherwise noted.
1."The Birds of St. Marks"
2."Yeah Yeah"
3."The Long Way Around"
4."Leaving Winslow"
5."If I Could Be Anywhere"
6."You Know the Night"
(Words written by Woody Guthrie, music written by Jackson Browne & Rob Wasserman)
7."Walls and Doors"
(Written by Cuban singer-songwriter Carlos Varela, English translation by Jackson Browne)
8."Which Side"
9."Standing in the Breach"
10."Here"
※)Bonus Track for Japanese Edition;
11."The Birds of St. Marks"
Live recording on Piano Acoustic Version
デヴィュー当時から3枚目の傑作、『Late For The Sky』辺りのリリカルで内省的、でも強いメロディーラインを持つ曲調、それをそのまま映し出しているのが、1曲目と2曲目ではないでしょうか?
この2曲目、”Yeah Yeah”はアルバムの中では長尺な曲ですが、シンプルな問いかけを持ったラヴソングです。最後のリフレインにある歌詞、今も変わらぬジャクスンらしい言葉(WORD)の選び方ですね。
「That keeps you hanging on still
For the love that you paid for
Or is it for the love that we've made」
リズム・セクションとハーモニーには、若手のフォークロック・バンドであるドーズ(Dawes)のメンバーが参加しています。
◆ ”Long Way Around” - Jackson Browne with Ry Cooder, and Buddy Miller (Americana Music Awards);
そして、3曲目の"The Long Way Around"では、歌い出しに彼の楽曲タイトル、「These Days」が使われています。 アレンジにおいても、あのニコ(Nico)のカヴァーしたヴァージョンのギター・パートがモチーフとして使われているようです。 歌詞の内容は、社会派ジャクスンの面目躍如とも言えるものです。 メキシコ湾岸での石油流出、企業の政治活動に一石を投じることとなった判決、Citizens Unitedのこと、そして、銃社会であるアメリカで繰り返される悲劇について言及しています。
まだまだ、道のりは遠く遙か先にある(The Long Way Around)と言っています。
4曲目、”Leaving Winslow”、これはグレッグ・リース(Greg Leisz)のペダル・スティールが印象的な、カントリー・ロックです。 とにかく、ペダル・スティールの素晴らしさが目立つ曲です。 そして、タイトルにある、"Winslow"と云う固有名詞、に聞き覚えはありませんか?
「Well, I'm a standing on a corner
in Winslow, Arizona
and such a fine sight to see」
これは、あの軽快なイーグルス(The Eagles)のヒット曲、”Take It Easy”の2ndヴァースに出て来ます。ジャクスンとグレン・フライ(Glenn Frey)との共作ですが、あまりにもイージーな歌詞の内容なのであまり好きではありません。時代を反映した曲なんでしょうね・・・。
元々は、2013年に行われたアート・プロジェクトである”Station To Station”のために書かれたそうです。
ですから、リフレインのところで
「Station to station, coast to coast」
と歌われており、環境問題について言及している一節もあります。
5曲目、”If I Could Be Anywhere”は本アルバムの中では私のフェイヴォリットの一つです。 ガラパゴス諸島を訪れた時に感じたことがきっかけとなり、プラスティックによる海洋汚染問題や、CO2排出規制に対するアメリカ政府の姿勢について言及しています。
この曲では、演奏メンバーには新旧取り混ぜた凄い名前が並んでいます。
ベンモント・テンチ(Benmont Tench)、ジム・ケルトナー(Jim Keltner)、ジェフ・ベックのバックにいたキュートだが手ごわいタル・ウィルケンフィールド(Tal Wilkenfeld)です。 一聴する限りは、それほど目立った演奏ではないと油断していると、最後のコーラスのリフレインが終わった後に続く3分間近いエンディングのインストは流石に強者揃いだからこそでしょう!・・・・。鳥肌が立つくらいに素晴らしい演奏、ピアノとハモンドが交互に出て来て"うねり"を産み出して、ドラムスのタムのロールと共にクライマックスへと到達して行きます。ジャクスンは、特にタルの豊かな才能(ベーシストではシンガー・ソングライターとしての)を絶賛しています。
6曲目、”You Know The Night”はあのウディ・ガスリー(Woody Guthrie)の残した未発表の歌詞に曲をつけるプロジェクトにおいて、ジャクスンが担当した楽曲がベースになっています。 元々は15分近い大作だったものをコンパクトに編集して、一部コード進行も変更したようです。
■ ”Walls and Doors” - Jackson Browne ;
7曲目、”Walls And Doors”はまさに”Late For The Sky”を連想させます。 この曲は、友人である、キューバ人のシンガー・ソング・ライターであるカルロス・ヴァレーラ(Carlos Varela)の曲をカヴァーしています。歌詞は英語の訳詞になっており、エンディング部分ではカルロス自身のヴォーカルを被せています。 間奏のエレクトリック・ギター(スライド)が、まるでデヴィッド・リンドレー(David Lindley)さんのラップ・スティール(Lap Steel)を思い起こさせるくらいに素晴らしく、印象に残ります。 弾いているのは、グレッグ・リースかと思ったら、ヴァル・マッカラム(Val McCallum)であらためて驚きました。
8曲目の"Which Side" 、これは2011年に起こった米国の格差是正を訴える「オキュパイ・ウォールストリート」を支援するイヴェントで初めて発表しています。その後、歌詞の内容やブリッジ部分を書き加えて現在の形になったそうです。
「Come on come on come on if you're coming
Battle lines are drawn
Come on come on come on if you're coming
Which side - which side are you on ?」
明確な主張を持った歌詞ですね、受け取る側には賛否両論はあるでしょうが・・・・。
演奏面では、このバックでグレッグが演奏しているラップスティール、化け物!、デヴィッド・リンドレーさんを凌ぐ素晴らしさです。これは是非ともライヴで聴きたい曲ですね。
◇ ”Standing in the Breach” - Jackson Browne ;
そして、9曲目のタイトル曲、"Standing in the Breach"、私にはあの”The Pretender”と相似形の曲に聞こえてなりません。ヴァルの弾くギター、本当に惚れ惚れしますね。 かすかな希望の灯火が見えていることを仄めかす、最後のヴァースに救われるのでしょうか?
ラストの曲、”Here”には、かつてのバンドメンヴァーのマーク・ゴールデンバーグ(Mark Goldenberg)がらしいギターを弾いています。アンヴィエントっぽい響き、かつての『I'm Alive』での世界観でしょうか。 元々は2009年にサウンドトラックとして書き下ろされた曲です。 映画は「シュリンク」(Shrink)と言うらしいのですが、全く観たことがないので分からないです。
日本盤には、11曲目がボートラで、"The Birds of St. Marks"のピアノの弾き語りヴァージョンが収められています。 アルバムとしては、この前の”Here”で終わった方がしっくりきます。
◆ Produced by Jackson Browne & Paul Dieter
現在、米国をツアー中であり、その後はヨーロッパを廻り、来年3月には来日します。 バンド・メンバーは今回のアルバムにも参加しているメンバーです。
Val McCallum - guitar
Mauricio Lewak - drums
Jeff Young - keyboards
Bob Glaub - bass
Greg Leisz - guitar, lap steel, pedal steel
このアルバムのレコーディングにおいて、使用したギターのこと、グレッグやヴァル、そして、新しく登場したタル・ウィルケンフィールド(Tal Wilkenfeld)については、こちらのサイト(Musicradar↓↓)で詳しく語っています。
膨大なギターコレクションを所有するジャクスンですが、今回使用したメインのギターは、アコースティックはマーティン(Martin OO-17)とお馴染みのギブソン、そして、エレクトリックはフェンダーのテレキャスターとストラトだそうです。
また、彼の楽曲の特徴である、曲の中に多重のブリッジを含み、且つ、コーラスのヴァースを持つ構成、これは友人であるジョン・ランドー(Jon Landau)との仕事で培われたと述べています。 ブルース・スプリングスティーン(Bruce Springsteen)のマネージャーであり、プロデューサーでもある人ですが。
ジャクスンも4作目のアルバム、プリテンダー(『The Pretender』)を彼のプロデュースで製作して一皮剥けたと思っているのは私だけでしょうか?!
この"Musicrader"のインタヴューでは、本アルバム以外のこと、あのザ・セクション(The Section)やスティーヴィー・レイ・ヴォーン(Stevie Ray Vaughan)のことも語っていますので、別の機会に触れてみます。