John Mayer の新作 - 『Born And Raised』を聴く | Music and others

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遅ればせながら、ジョン・メイヤー(John Mayer)の新作を手に取りました。 あっと驚く内容の『Born And Raised』です。 この人ほど、アルバム毎にイメージが変わるミュージシャンはいないように思います。 ここ2週間ほどは、大好きな2006年のスタジオ・アルバム『Continuum』等と比較しながら、聴き込んでいました。


Born & Raised/John Mayer

¥1,436
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このアルバム、『BaR』を聴いて即座に思い浮かんだのは、ボスことブルース・スプリングスティーン(Bruce Springsteen)の『ネブラスカ(Nebraska)』です。 1982年リリースの宅録(自宅で4トラックレコーダー使用)アルバム、多くのミュージシャンにリスペクトされています。 緻密にアレンジされ、個人的にはオーヴァー・プロデュースである と思える2009年リリースの『Battle Studies』の反動だと言えます。 また、2005年には、“Daughters”はGrammy Awardにおいて、何と“The Song Of The Year”を獲得しております。


クロスロード・ギター・フェスティバルでの演奏シーンや、ライブの動画を観ると、ギタリストとしての側面が強調されてしまいますが、この人はコンポーザーと言うか、”サウンド・クリエーター”だと思います。

”サウンド・クリエーター”だとは言いましたが、ギターと機材を見るとギタリストへのこだわりも相当に強いようにも見えます。 以前に取り上げたミュージシャンズ・ミュージシャンであるといったソニー・ランドレスや、ラリー・カールトン(Sonny Landreth, Larry Carlton)と同じアンプ(Dumble製)を使っていますから。

Rolling Stone誌の記事では、いつも”二人のJohn Mayer”がいるそうです。 
一人目は、『the neo-James Taylor』(代表曲である "Daughters" や "No Such Thing"から連想できる)。 そして、もう一人は、『the blues-guitar omnivore』(雑食性のブルース・ギタリスト)。 物書きの人はよくもこんな表現、思いつきますね~!!


私は彼の熱心なファンではありませんが、コンポーザーとしての実力を示した『Continuum』と鉄壁のリズムセクションでの『John Mayer' Trio』は彼にしか出来ない音があります。 一方、『Battle Studies』の過剰なアレンジといかにもと言える”メインストリーム・ポップ(Mainstream Pop)”な指向は、良く出来たアルバムだけど、すぐに埋没して忘れ去れる音楽と言う印象が強くして、あまり聴かなくなっていました。 
カヴァーしていた"Crossroads"も?と言う感じで、少し混乱してしまいました。 



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イケメンであり、数多くの女優と浮名を流しており、ゴシップ欄を賑わしております。 2010年のPLAYBOY誌に掲載されたインタヴュー記事で、何もかも明け透けに語ったことで、多方面から反発を買い、「人種差別」的な発言によりTwitterも閉鎖する結果となりました。 実際、モテるのだからイイんでしょうけど、元カノとのベッドタイム・ストーリーを暴露するのはどうかと思います。 大きなお世話でしょうが、30歳過ぎた男としては”未熟”ではと言われても致し方ないでしょうネ。

U.S.のサイトを見ると、かなり”辛辣”な表現が数多く見られます。 特に、あのRolling Stone誌では辛口で、このアルバムのレヴュー記事にも、当然のように.....。Billboard誌の普通のレヴュー内容とは大きく異なります。

こんな表現です、”Then there's John the Dude, sloshing his TMI all over TMZ”
英会話教室ではありませんが(笑い)、
ー "dude"は、この場合には「とてもバカなことをした奴」のニュアンス
ー "TMI"は、"Too Much Information"の略語で、「個人的なことで、人に言わないようなことをぺらぺらしゃべる、あんまり細かい描写をして欲しくないのに、くどくどと詳細を述べる」ような感じを表す
ー "TMZ"というのは、芸能ニュース専門のウェブサイトで隠れた人気サイトです。どの国でも、やはりゴシップ・ネタ(芸能ネタ)は不滅のようですネ。
ー "slosh"は、辺り構わずまき散らす

それから、”Usually, Mayer fastidiously cordons off his music from his slash-and-burn public persona. But on his fifth album, he forces them into the same room and demands they work things out” です。
ー "cordon"とは、縄を張って囲う
ー ”slash-and-burn”は、ひどく乱暴な、とか、破壊的な(後先のことを考えない)
意訳すると、「自身の音楽と破壊的な人格との間に明確に線を引くのが普通なのだが、今回のアルバムではその二つを同じ部屋に封じ込めて、上手く機能させた」と巧い表現ですね。

AMAZON.comにおいては、Customer Reviewsは110件ものコメントが寄せられていますが、文章家と言えるような表現が多いです(見習わないといけません!)。

アルバムを出せばチャート1位か、軽くダブル・プラチナ以上の売り上げが約束され、全米ツアーはデカイ箱を満員にする、正常な立ち位置を自分で確認することは大変だと思います、今も昔もミュージシャンにとっては.........。いつものようにパーティ三昧で???

丁度、かつてUKのブルーアイド・ソウルの中で一声を風靡したポールヤング(Paul Young)のことを思い出しました。 あっという間にスターに上り詰めて、日本公演でもハコは新宿厚生年金会館から武道館になりましたが、歓声でほとんど何も聞こえないライブだったのです。 あんなライブの経験は後にも先にも一度切りでした。 アイドル視され、自身の指向や音楽の中身はあまり語られたり評価されることもなく、自分を見失うような状況、私には想像が付かないので、簡単に批評はできませんが......。


ジョン・メイヤーが来日していたあのジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)のようなアイドル扱いされる訳はないですが、大騒動を経験したからこそ、きちんと足元を見据えて前を向けるようになったのだと思います。
このアルバムを聴いて、即座に思い浮かんだのは何故か、たった1回限りで終わった1976年リリースのスティルス・ヤング・バンド(Stills-Young Band)の「Long May You Run」の音でした。1971年の「After The Gold Rush」のサウンドそのものではなく、ニール・ヤングの演る味わいのあるハープとアコースティック・ギターの音色でした。

**** Track List ******

1. "Queen of California"
2. "The Age of Worry"
3. "Shadow Days"
4. "Speak for Me"
5. "Something Like Olivia"
6. "Born and Raised"
7. "If I Ever Get Around to Living"
8. "Love Is a Verb"
9. "Walt Grace's Submarine Test, January 1967"
10. "Whiskey, Whiskey, Whiskey"
11. "A Face to Call Home"
12. "Born and Raised (Reprise)"

The Band;
 John Mayer - Vocals, Guitars, Harmonica, Keys, Percussion
 Aaron Sterling - Drums, Percussion
 Sean Hurley - Bass
 Chuck Leavell - Keys

Guest Musicians;
 Chris Botti – Trumpet on 9
 David Crosby – Vocals on 6
 Graham Nash – Vocals on 6
 Jim Keltner - Drums on 5
 Greg Leisz – Pedal Steel on 1, 3, 12
 Sara Watkins – Vocals and violin on 11


一般論として、カントリー・ミュージックへの回帰と言う表現は的はずれだと思います。 冒頭1曲目、”Queen Of California”の歌詞にも出て来ますが、ニールヤングの『After the Gold Rush』も、ジョニ・ミッチェルの『 Blue』も彼が実際にリアル・タイムで聴いているアルバムではありません。 象徴的な”WORD”としての引用ではないかと思います。

東部エリア出身(コネティカット州)のジョンに、生まれつきカントリーやスワンプの”音”に馴染みがあるというのは無理があるのではないかと........想像します。
"The New Guitar Gods"の一人である、デレク・トラックスとは明らかに出自が違うので、生まれつき心の何処かに染み込んでいる音が自然に溢れた訳ではなく、意図的にこのようなサウンド・プロダクションにしたのだと思います。
だからこそ、ドン・ウォズをプロデューサーに招いたのではないかと。

各曲の詳細な解説は音楽雑誌や記事に任せますが、いくつか印象に残った内容を綴ってみます。

Shadow Days: ファーストシングルで、非常に内省的な雰囲気を持ち、歌詞はあの騒動の事に言及しているかのようです。「僕はトラブル・メーカーではない。 彼女のことを決して傷つけるつもりはなかった」と。 さらには、「真っ当な心を持った本当の男」だと。 サウンド的には、メロウなサザン・ロックに聴こえます。 ジャクスン・ブラウン(Jackson Browne)の2ndアルバムを思い出しました。




Speak for Me:冒頭からいきなり憎き”Rolling Stone”誌のカバー(表紙)のフレーズが繰り返されます。 言いたかったのは、”かつてのようにロックはもうスターなんて産み出さなくなってしまった”と嘆いているようです。 ロックの象徴とは、まさにカバー(表紙)を飾ることでしょうか?
フリートウッド・マック(Fleetwood Mac)のサウンドのような気がします。


$Music and others-John Mayer RS001




Something Like Olivia:ジム·ケルトナー(Jim Keltner)のドラミングがこの曲のグルーヴを支えて、より滑らかなサウンドに仕上げています。 また、チャック・リーベル(Chuck Leavell)のオルガンがより荘厳なアクセントになっています。 コード進行は、シンプルな12Barsのゆったりとしたブルース進行のようです。 私の最も好きな曲です。



Born and Raised:オープニングのハーモニカに、グレッグ・ルイスの鋭いラップ・スチールとドラムスの感じは、まさに C, S, N, & Yです。 それを裏打ちするかのように、コーラスにはあのデビッド·クロスビーとグラハム·ナッシュ(David Crosby &Graham Nash)ですから。 讃歌と言えばよいでしょうか。


Love Is a Verb:「愛は動詞である」。 これは正にソウルです。 いい声ですが、喉の手術後、問題ないんでしょうか? 何故か、ジョージ・ハリスン(George Harrison)の大作である『All things Must Pass』を思い出しました。




ところで、意外な事に、彼は高校生時代に交換留学生として日本に滞在しており、大の日本好きです。  また、こぼれ話ですが、原宿にあるヴィンテージのTシャツ店である、「ハローテキサス」に来店した時の模様が下記のサイトにあります。 この店には、同年2009年2月にはドイル・ブラムレット(Doyle Bramhall II)とエリック・クラプトン(Eric Clapton)が来日時に訪店しております。


ジョン・メイヤー(John Mayer)ご来店!!! 2009/5/26


次回は、”New Guitar Gods"と言われる部分を中心にジョン・メイヤーの事、書いてみます。