紅い糸切らないで 翔と仲間 | 真紅の薔薇に囚われて

真紅の薔薇に囚われて

真紅の病んでる心のままに…

咲には、翔のその自信が何処から出て来るのか判らなかった。

「どうしてそこまで言い切れるの?絶対に退学にならない、なんて」

「それはね、うちの親と学園の理事長は遠い親戚にあたるんだよ。だから俺は退学にはならないし、それ以前に俺、何もしてないしね」

「それ本当……?あたし翔君とここの理事長が親戚だなんて、聞いた事なかった」

「だって誰にも言った事ないからね。咲だけ」


そう言って、にっこり笑った翔を見て、咲は心の不安が軽くなった様な気がした。

でも、学園中に広まる噂。



翔と関係のあった女の子が、次々と何者かに襲われる事件。
裏に翔の存在があるのでは、と誰しもがそう考えるのが筋だろう。
無論、咲を除いて。

咲は翔が『俺は何もやってない』の言葉を信じた。
確かに翔は何もやってはいなかった。

女を呼び出す事以外は。
だから、どうとでも言い逃れは出来るのだ。



翔は敵が多かった。
それを使わない手は、ない。

翔はあたかも自分の名前で呼び出された女が被害に遭っただけで、騙された女も悪いのだと、強調した。

幸い、翔の仲間は高校が別だったり、退学したりで翔達の計画が発覚する恐れなどなかったのだ。

翔はその事も既に計算済みだった。勿論、翔の仲間の絆は絶対的なものだ。
翔はリーダーとしての資質を生まれ持った、本物のリーダーだった。



けれど、翔は仲間は仲間。
子分、などと考えた事は一度もなかった。
そして繰り返し、越えて来た幾多のケンカ。
それもこの仲間あってこその勝利なのだ。
翔にとっては、かけがいのない仲間であり、唯一信頼出来る友達だ。



その翔が、命を懸けても守りたい物があると聞けば、仲間達は同じ様に命懸けで守る手助けをしてくれる。
そんな仲間は翔にとっては、強い絆で結ばれた大切な親友だ。



だからこそ今回、咲に迫った危険を翔は仲間に相談したのだ。
翔ひとりでは、犯人を捕まえる事が出来ないと判断したからだ。
そして、仲間との相談の答えが今回の事件に至る。


咲はあの日、翔が友達と何か計画していた事を薄々感じていた。
そして、それが翔の周りで密やかに噂になっている元なんじゃないかと、心配だったのだ。

翔が仲間と相談していた事こそ、咲自身を守る計画の筈だから、咲は自分が悪者な気がしてならなかった。

「翔君、あの時友達と何を話してたの?」
「何をって?何が?」
「誰かを誘拐するみたいな話し、してたんじゃないの?」
「それこそ咲は考えなくていい事だよ。それに俺は誰の事も誘拐なんかしてないしね」

咲は「……信じていいの?」と翔に聞いた。

「そんなに俺が信じられないんだ、咲は。それよりあれから変わりはない?」

「ないよ。アドレス変えてから変なメールも来ないし」

「そう、よかった。でもまだ油断しちゃ危ないからね。絶対にひとりで行動なんて、しちゃダメだからね」

「ほらね、咲は危機感がなさ過ぎるんだよ。さっきだって赤井君が来るのがちょっと遅かったらひとりで飛び出してたでしょ?」



泉が呆れた様に言う。
確かにそうだ。

咲にはまだ自分の置かれてる立場が全くと言っていい程、分かっていなかった。


これだから咲は危ないんだよなぁ。
俺が裏で手を回したのは少しは役立ったかな?

でもまだだ。
まだ、油断する訳にはいかないんだ。



「咲、頼むから軽率に動きまわるのはやめてくれよ。俺、命が幾つあっても足りなくなりそうだよ」

咲を拉致なんかしてみろ。
俺は必ずそいつを叩き潰す。
勿論徹底的にな。

けど、それ以前に咲をそんな目に遭わせてたまるか。
「うにゃ~、そんなに大げさ?」


「「当たり前じゃん、まだ気付かないの?」」


翔と泉、ふたり同時に怒られた。
何だか前にもこんな事、なかったっけ?


「赤井君、あたしも咲を出来るだけ守るから、後は頼んだからね?」


「了解です、泉先輩が話しの分かる人で良かったよ」

「あたしと咲は小学一年の頃からずっと一緒だからね。咲ってしっかりしてるのか抜けてるのか分らないでしょ?」


「はは……、確かに抜けてるのか天然なのかと思ってたよ」


何かあたし、酷い言われ方してないかなぁ?
ふたり揃って言いたい放題だよね。
でも、泉はともかく翔君までそんな風にあたしの事思ってたんだ……知らなかった。

天然って、どういう意味かな?

「翔君って、あたしの事そんな風に思ってたの?」

「そういうとこも全部、咲の魅力だよ。俺をこんなに夢中にさせた癖して、全然気付かないとことかね」


ドクン…-----


頬が熱い。
そうだった、あたしの全てを翔君は知ってるんだった。
あれは夢じゃない、本当にあった事なんだ。

そして……。
あたしは多分翔君のファンの子から恨まれてるんだ。
あたしだけ翔君に特別扱いされてるから。


でも、譲れない。
この恋だけは誰にも負けたくないから。
翔君は誰にも渡さない。

あたしは、あたしはどんなに恨まれても構わない。
胸の奥が苦しくなるほど翔君が好きだから……。


だからお願い。
誰もあたし達の邪魔はしないで。

翔君、何するか分かんなくて正直ハラハラする。
今だって本当は翔君の友達が何かやってるんでしょう?
聞いても翔君は答えてくれないから、余計に怖いの。

「…き、咲?どうした?何か考え事?」

「あ、ごめん。何?」

「授業始まるから俺戻るけどさ、また休み時間来るから大人しくしてろよ?」

「なぁに?大人しくって?あたしそんなに煩(うるさ)くないもん」

「そーゆう意味の大人しくじゃなくて、勝手な事すんなって事。分かった?」

「もう、そんな言い方して。あたしの方が年上「分かってるなら、出来るよな?」」

翔の言葉に逆らえない威圧感を感じて咲は「うん」とだけ答えた。

「んじゃ俺教室戻るわ。泉先輩あとよろしく」

翔は咲の頭にくしゃっと、何気なく手を置いてから咲のクラスから出て行った。


その一部始終を見ていた睨みつける様な視線があった事には、誰も気付かなかった。


「咲、赤井君と何か、あったんでしょ?」

勘のいい泉が、その翔の仕草を見て察知したのだ。

戸惑う気持ち。
話そうか、でも恥ずかしいし。

「咲ぃー、隠してもあんたの顔に書いてあるよ」

「えっ、嘘?何て書いてあるの?」

「くすっ、引っかかったぁ~。やっぱりね、最近咲一段と可愛くなったもんね。で?初体験の感想は?」

「……痛かった」

「ぶっ、それが感想なの~?初めてが痛いのは当たり前じゃん」
「えっ?まさか泉も……?」

「まぁ、咲よりは早かったね。でも咲あの頃恋愛全然興味なかったじゃない?部活一筋でさ」

「知らなかったなぁ、泉って彼氏いたんだ?」

「今は学校違うからね、仕方ないよ。でも咲も知ってる人だよ。中等部で同じクラスだった、渡辺洋一だよ」

「えっ?洋一君が泉の彼氏なの?知らなかった、いつから?」

「中学卒業する時にね、言われたんだ。高校違っちゃうからさ、その前に付き合ってくれってね。でも、咲だって今は彼氏持ちでしょ?しかも学園のアイドルがね」


からかう様な泉の言葉に、咲はまた忘れてた不安がこみ上げて来るのを感じていた。


そう、翔君は学園のアイドル。
そして咲は、そのアイドルを独り占めしている憎い女なんだ。


しかも他校にはファンクラブまであった。


それは咲もこの眼で見てしまった。
ファンの子に取り囲まれた翔の姿を。あの時はまだ咲は翔君と結ばれる前だったけど、今は違う。

もしまた一緒に歩いてる時に、あんな事が起きたらあたしはどうする?

きっとその輪の中に入ってでも、翔君を取り戻すかも知れない。
そのくらい咲は翔に夢中になっていた。


「でもやっぱり赤井君だね。咲を落とすとはね」

「まぁ、そうかも。翔君じゃなかったら、きっとあたしはまだ誰とも付き合うなんて思わなかったかな?」

「へぇ~、認めるって事は咲も随分赤井君に惚れ込んだもんだね。ま、それだけの魅力は充分持ってるもんね」

「泉から見てもそう映るの?翔君って」

「うん、確かに不思議というか、独特の雰囲気持ってるよね」

「翔君と駅に向かって歩いてたらね、何処かの中学の女の子の集団に翔君囲まれちゃったんだよ。本当にファンクラブあるみたいだよ?」

「あっても不思議じゃないね。赤井君ならね」

咲と泉の会話を、息を殺して聞いている人物がいる。

咲も泉も、もちろん翔さえも、まさか咲と同じクラスに危険人物がいるなんて、思いもしなかった。

けれどその魔の手は静かに咲の足元に忍び寄って来ていた。


『絶対に赤井君を取ってやる』