今日は京都大学東京オフィスでの「京都大学丸の内セミナー 」に行ってきました。大変興味深い内容でした。

 
 
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低酸素環境下でがん細胞が治療抵抗性を示す、という知見をもとに開発されているがんの三大療法を紹介するのが最大のテーマだったと思います。

 

「がんとは?」からスタートして、がん細胞の特徴や、なぜがんが発生するかをわかりやすく説明していただきました。これはこの先の「低酸素環境」を理解する上での重要な基礎でした。がん細胞とは「無制限に増殖し、増殖を停止することができない」「接触阻害を起こさない」(通常は隣の細胞が増殖にブレーキをかける)「転移能/浸潤能を持つ」(周りの組織に入り込んでいく)という特徴と持ちます。

 

そして「がん(悪性固形腫瘍)内部の微小環境」の部分で低酸素環境についての説明がありました。腫瘍組織の中には、がん細胞だけでなく、がん幹細胞、血管(血管内皮細胞)、周皮細胞があったり、免疫担当細胞、炎症細胞があったりします。がん細胞は無制限に増殖するのが特徴ですが、爆発的な増殖のために、がん細胞が沢山あり血管から遠いところでは、低栄養・低酸素になります。

 

また、同じがん患者さんでも、腫瘍の中の低酸素領域の量に違いがあります。同じ放射線治療をしても、低酸素領域が多い人の場合、再発率が高くなります。また、低酸素領域が多い人の場合、放射線治療とともに高濃度酸素療法をやった方が再発しにくい、という研究結果があるそうです。(咽頭癌のケース)

 

つまり「がん細胞は、低酸素環境下で放射線に強い」=治療抵抗性がある、ということになります。これは、放射線ががん細胞のDNAを壊してがん細胞をやっつける仕組みにかかわります。放射線が水に当たると「ラジカル」が発生して、これがDNAを壊すのですが、この時に酸素が必要になります。そのための酸素が少ない環境ではがん細胞のDNAを壊す武器が出来にくいわけです。

 

また、抗がん剤も低酸素領域では効きにくく(抗がん剤を排出するP-糖蛋白質が活性化してしまい、抗がん剤が排出されてしまう)、低酸素領域の多いがんに罹患した患者さんは手術しても予後が悪い(低酸素領域ではがん細胞が低酸素領域から逃れるために運動性を獲得してしまい、わずかに取り残した見えないようながん細胞から再発する)という研究結果もあり、三大療法のどれも「低酸素領域」には弱いようです。

 

そのために、「低酸素領域」のがん細胞を狙い撃ちに照射できるような高精度の放射線治療機器、稼働性の高い腫瘍にも照射可能な方法、低酸素がん細胞を標的とする新たな薬剤の開発などが進んでいるそうです。

 

抗がん剤では「チラパザミン」という低酸素領域でのみ毒性を有する薬剤がアメリカで治験まで進んだそうですが、これはまだうまく行っていないとのこと。

 

また、アバスチンは、がん細胞が分泌するVEGFという血管成長因子(がん細胞のまわりは低酸素・低栄養になるので、がん細胞が血管成長因子を分泌して近くに血管を作り、自分に酸素や栄養が来るようにする)を阻害する、というメカニズムの抗がん剤であり、これも低酸素がん細胞を標的とする抗がん剤のカテゴリーに入るそうです。

 

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チラパサジンとアバスチン、咽頭癌は、質疑応答のときに質問して教えていただきました。

 

つまりは「低酸素領域」にあるがん細胞は「たちが悪い」ので、そこを狙い撃ちすることで効果の高いがん治療に結びつける、というイメージでしょうか。

 

「低酸素領域」のがん細胞を狙い撃ちに照射できるような高精度の放射線治療機器、稼働性の高い腫瘍にも照射可能な方法

 

これらは京都大学病院の放射線治療科にあるそうです。