『遺伝子医療革命』 | 鞭声粛粛、夜本を読む

『遺伝子医療革命』

鞭声粛粛、夜本を読む 面白い本のガイド-遺伝子医療革命    『 遺伝子医療革命 ゲノム科学がわたしたちを変える (フランシス・S・コリンズ、NHK出版、初版2011年1月)は、ひとり一人に合った医療がいかに必要かを遺伝子研究の角度から啓発した一般向けの良書です。具体例が豊富で分かりやすく話が進みます。

  本書は、将来の医療が遺伝子検査をした後に薬を処方する 「 DxRxパラダイム 」 が主流になると指摘しています。それにはバリアントを突き止めるといった難題がいろいろあるが、えっ?バリアントってなんだ?読んでいけば分かります!そういうのを知るのも本との出合いです。なーんて偉そうなことをたまには言ってみたい…。

サーチ読んでおきたい一冊

  副題にあるゲノムとは、二重らせんでお馴染みのDNAの総体を指し、DNAとは生命の指示書であり設計図です。遺伝子はここに乗っかっています。

  パーソナルゲノムの把握が病気の予防や治療に効果的なことを、本書は繰り返し述べています。健康や治癒のための素養として読んでおきたい一冊だと思います。

  この本、かなりむずかしいんじゃないの?

  高校で習う 「 生物 」 の基礎のまた基礎、たとえば、染色体って?メッセンジャーRNAって?もちろんDNAって?を知っていれば、いや、おぼろげにでも覚えていれば、理解は早いでしょう。

   「 RAS 」 が癌遺伝子の名前だなどという細かいところはすっ飛ばしても、イケテル本です。医師や薬剤師、看護師を目指す高校生は必読でしょうね。

サーチまずは家族歴

  この手の本は著者が誰であるかも大事。

  2000年6月、当時のクリントン米大統領が 「 全ヒトゲノムという未踏の地への探検を完遂させた 」 と発表した際、研究チームのリーダーとして同席していた世界的な遺伝学者。クリントン大統領は大げさに表現しましたが、実際は 「 私たちはヒトDNA指示書の文字、つまりヒトゲノムのほぼ90%を読むのに成功した 」 (文中)というのが正しい認識だった指摘しています。

  本書では、遺伝子に着目した予防や治療をどんなことから始めるべきと説いているのでしょうか。

   「 無料で、ほんの1時間もあればできるのだ。…(中略)…そう、家族の健康の歴史だ 」 (文中)。まずは、家族の病歴を家系図に書き込んでいけばいいといいます。

  著者は糖尿病や心臓病、癌、ぜんそく、関節炎、アルツハイマー病など 「 人類に共通してでる病気全体 」 を 「 よくある病気(common disease) 」 として挙げ、次のようにアドバイスします。

   「 家族の健康史は 『 よくある病気 』 の予測因子として現在測定可能なもののうち最強だということがわかっている。 家族は遺伝的な要素はもちろんのこと、環境的な要素も共有していることが多いからだ。 あなたの親かきょうだいに心臓病患者がいれば、あなたの心臓病リスクは2倍だ。いわゆる第一度近親者(遺伝子情報を半分共有している親子、兄弟姉妹のこと)に心臓病患者が2人か3人いて、しかも55歳以前に発症していれば、あなたのリスクは5倍に跳ね上がる 」


サーチiPS細胞に興奮

  本書は 「 よくある病気 」 をこうも説きます。

   「 糖尿病をはじめほとんどの病気が遺伝しやすいこと、平均するとリスクの約50%は遺伝因子にあることがわかっている。しかし遺伝子解析からは、まだ遺伝的要素の10%未満しか見つけられていない(黄斑変性は例外である)。世界中の遺伝学者は頭をかきむしり、遺伝因子の残りはどこに隠れているのかと思い悩んでいる 」

  だが、遺伝子医療の進歩は早い。い
ろいろな経路や方法があり、最も分かりやすいケースでは個々の対象者のDNA配列を把握することで、高い効果を発現させ副作用も以前より抑えた薬剤投与が可能になるというものです。

  これ以外には、体内の細胞に直接DNAを送り込むケースがあります。しかしDNAが巨大で帯電した分子であることに加え、不活性化ウイルスを運搬役にしても免疫装置が作動するためなかなか上手くいかない。それならば臓器移植のように、DNAを細胞ごと送り込んでしまおうというのが 「 幹細胞治療 」 です。

  いろいろな臓器や組織を作り出すのが狙いで、受精卵を壊してそうしたものを作り出す万能細胞たるES細胞(胚性幹細胞)株を使った方法は倫理的問題を抱えています。著者は批判的です。 「 真の革命と呼べるにふさわしい科学の進歩を実感した 」 と持ち上げるのが、京都大の山中伸弥教授の2006年の論文。マウスの皮膚細胞に4個の遺伝子を入れるだけでマウスのどんな組織にも分化できる多能性細胞になるというiPS(人工多能性幹細胞)の誕生でした。

  本書がまず勧める健康法は何か。やはり禁煙でした。ハリウッド映画 『 ガタカ 』 の視聴も薦めています。 「 必ずしも事実を反映しているわけではないが 」 、遺伝子と生命、健康について一般の方がイメージを持つとば口としてはいいそうです。

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