彼の名前も覚えていない。

まるで、新宿駅の街頭で「手相を勉強しているんですが。。。」

といって近づいてくる人のように、

ベタだと今では思う。

また、睡眠薬強盗でなかっただけマシかなとも。


英語を勉強する学生というモロッコ人の彼は、

相乗りタクシーの中で声をかけてきた。

(正確にいうと、その前からカモとして僕に、

ターゲットを絞っていたのだ)

ごく自然な流れで、

「ティトウアンのカスバを案内しますよ!」

ということになっていた。

僕の気持ちは、浮き立っていた。

出会いに飢えていたのかもしれないし、

それがやさしさだと勘違いしたのかもしれない。


今では世界遺産となっているこの街のカスバは、

迷路のようで、とても彼の案内なしでは、

歩けないのように思えた。

そして、友人のところでお茶をしようと、

さらに小さな路地を進んでいった。