奔走する虚構 | 桂米紫のブログ

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米朝一門の落語家、四代目桂米紫(かつらべいし)の、独り言であります。

『十三コテン劇場』、無事終演しました。

今回第6回目にして、初の満席でございました!
補助椅子も出まして、大いに盛り上がりました!
ご来場くださった全てのお客様、そしてご尽力くださった世話人の皆さんに、厚く御礼申し上げます。


今回のテーマは、「もう一度会いたい運命の人」。
まず落語が「崇徳院」、そして映画が『心の旅路』…というカップリングでございました。

「今回の組み合わせはぴったり!」というご意見も多く、嬉しい限りでございます。


「崇徳院」は、大好きな噺です。

フルで演じると30分はかかりますし、場面転換も多く喋ることも多い噺ですが…僕はなるべくカットしたくありません。

美しいものと醜いもの、風雅なものと汗まみれのもの、涼やかさと暑苦しさ…そういう相反するものがこれでもかと詰め込まれています。


落語って、下々の人間がこしらえ作り上げた芸ですので、金持ちや権力者への反発みたいなものが、随所に見受けられます。
「崇徳院」でも根底に流れているのは、“金持ちのボンボンの一目惚れに振り回される、下々の者の悲哀”です。

だって親旦那は、実の息子である若旦那が恋煩いで死にかけてるっていうのに、出入りの者に金をちらつかせて走り回らせるだけで、本人は何にもしないんですもの!

このネタの胆は、そんな金持ちのわがままは百も承知で…でも小さい頃から自分に懐いてくれている若旦那を助ける為に、ボロボロになりながらも奔走する、手伝いの熊五郎の姿だと思います。

だから演者も、ボロボロになっていかねばならない…と思って、僕は「崇徳院」を演じています。
ボロボロになった演者に、ボロボロになった熊五郎が憑依する瞬間が、このネタの最大の見せ場なんじゃないかと。


今日はボロボロになり過ぎて、若干噛み気味でしたけど…でも熊五郎は確かに落語の世界から現世に降りてきてくれ、僕としては彼がちょっとでも現世に爪痕を残す、その手伝いが出来たんじゃないかと思います。


『十三コテン劇場』、次は来年の3月ぐらいに出来れば嬉しいな…と、世話人さんと話しておりました。

次回はどんな取り合わせになるか…乞うご期待です!!

前回から始まった「落語家的ミニミニ映画紹介」コーナーも、お陰さまで好評です。

落語の時と雰囲気変える為に、着なれないスーツ姿でお喋りさせて戴くんですが…映画の会って事で、今日のネクタイはハンフリー・ボガートでございました。