NHK杯ショート


ボーヤンの演技が終わった時


私はボーヤンを見ていなかった


ボーヤンが素晴らしいジャンプを決めて演技を終了し、あいさつもしないうちに


第二グループのメンバーがリンクサイドに入ってきた


羽生選手はボーヤン・ジンに拍手を送りながら入場して来る。


私には、その拍手の仕方がまるで


『ハイハイ、素晴らしい演技だったんだね


でも、俺はそれを超えて行くから!』


そういっているように見えた。


私の見る限りでは NHK杯で羽生選手は完全にアスリートだった


負けず嫌いの


そして、また私も、カナダで気になった衣装の事など ひとつも見ていなかった


まるで、頭の中でテスカウンターが回っているように


一つ一つ エレメンツを追っていく


フィギュアが芸術じゃなくてスポーツになっちゃったと言った人がいたけれど


この彼の偉業を誰も否定できない


ジャンプを跳んだだけではない


スピン、ステップがレベル4という技術点だけだはない


すべての要素が曲に載って流れるように演じられていた


ジャンプがジャンプのためのものではなく


一つの作品のなかの一部になっていた気がします。


最後のお顔はバラードではなかったけれど・・・









羽生結弦が抱く成長への果てなき渇望
世界最高得点も「これがゴールではない」
2015年11月28日(土)


異次元の存在に登り詰めた


 ミックスゾーンに現れた羽生結弦(ANA)は穏やかな表情をしていた。そして数分前の出来事を冷静に振り返りつつ、周囲やファンへの感謝を述べた。


「一言で言うと『まだ明日があるな』というのが率直な気持ちです。皆さん、とても心配していたと思いますし、このプログラムで一度もノーミスをしたことがなかったので、すごく力の入った応援をしてくれました。本当にありがたいなと思いますし、この演技ができたのも皆さんのおかげだと思っています」


 106.33点。27日に行われたフィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズ・NHK杯男子ショートプログラム(SP)で羽生がマークしたこの点数は、ソチ五輪で自身が記録した101.45点という世界歴代最高得点をさらに更新するものだった。


 冒頭の4回転サルコウはやや着氷が斜めになりながらも成功。「試合で初めて跳べた」という4回転トウループ+3回転トウループはGOE(出来栄え点)で2.57点がつく美しいジャンプだった。後半のトリプルアクセルも決め、スピンとステップもすべてレベル4を獲得。演技構成点は5つの要素すべてが9点台だ。音楽が鳴り止む前から観客はスタンディングオベーションでその演技をたたえ、羽生自身も「どうだ」と言わんばかりの表情を浮かべた。


 点数が発表されると、コーチのブライアン・オーサーは手をたたきながら驚き、羽生も喜びをあらわにした。


「失敗を恐れるわけでもなく、久しぶりにワクワクしながら滑ることができました。完璧ではないですけど、ジャンプを全部立てたので、そのうれしさを久々に味わえて良かったなと思います」


 フィギュアスケートの歴史において、SPで100点超えを果たしたのは羽生のみ。五輪で出した記録をさらに4.88点も更新したのだから、まさに異次元の存在にまで登り詰めたと言っても過言ではないだろう。



世界最高得点をマークしたSP後、羽生が語ったこととは?

こだわった4回転2本の構成


今季が開幕する前、羽生はSPで昨シーズンはけがやコンディションの問題もあって実現できなかった「後半に4回転を入れる」構成で臨むことを明言していた。曲も同じショパンの『バラード第1番ト短調』。より完成度を高め、ハイスコアを狙う心づもりだった。

 だが、4週間前のスケートカナダでは、その後半の4回転トウループが2回転になり、73.25点で6位スタートというまさかの結果に終わってしまう。フリースケーティング(FS)で巻き返し2位に浮上したものの、1年間の休養から復帰したパトリック・チャン(カナダ)には及ばなかった。


次戦のNHK杯に向けて、羽生が選択したのはジャンプ構成の変更だった。そうした案が出た当初、オーサーコーチは少し難度を下げた構成にするつもりだったという。しかし、羽生自身が首を縦に振らなかった。あくまで4回転を2本入れることにこだわったのだ。その理由を羽生はこう語る。

「選択肢として、昨年の事故(中国杯FSの6分間練習で他の選手と激突し負傷)のあとと同様に、4回転を最初に跳んで、そのあとアクセルをやって締めればいいというのもなくはなかったです。ただ、実際にそれをやって得られるものは何かと考えたときに、結局昨年から練習していて、事故が起きたから難易度を落としたけど、ノーミスでいけなくて、それがただできるようになっただけなんです。それだけでは成長とは言えないですし、僕にとっての成長はそんな幅では絶対ダメだと。成長したいという意味も込めて、やりたいと思ったんです」


 家族や周囲の人にも相談しながら、最終的にはオーサーコーチに「やります」とだけ伝えた。そしてリスクを冒したその決断は見事に吉と出た。


「とにかくこの1カ月間、一生懸命きつい練習をこなしました。よくこの期間でプログラムを通せるようになったなと自分でもホッとしています」


危機感を持ちつつ、若手の台頭を歓迎


この果てしなき成長への渇望はどこから来るのか。根底にあるのは危機感だ。羽生は五輪王者として臨んだ昨シーズン、GPファイナル連覇と全日本選手権3連覇を成し遂げたものの、世界選手権ではハビエル・フェルナンデス(スペイン)の後塵を拝した。けがや体調不良というエクスキューズはあったが、それも羽生に言わせれば「自分自身の管理が甘かっただけ」。SPでは一度もノーミスの演技ができず、FSにしても満足いく出来ではなかった。

 今季はソチ五輪で金メダルを争ったチャンが復帰。フェルナンデスは4回転の精度に磨きをかけ、連勝でGPファイナル進出を決めた。


さらには若手の台頭も目覚しい。17歳の宇野昌磨(中京大中京高)が初参戦のGPシリーズで躍進し、ファイナルへと駒を進めた。そしてNHK杯のSPで2位につけた18歳の金博洋(中国)は、4回転ルッツのコンビネーションを武器にこの日も95.64点という高得点をマークしている。羽生は金の演技を見ていなかったそうだが、「最終滑走だったし、日本語のアナウンスもあったので必然的に得点は耳に入ってきました。『絶対に抜かしてやるぞ、見てろよ』と思いながらやっていました」と、対抗心をのぞかせていた。

 こうした若手の存在を羽生は歓迎している。


「最近、宇野選手をはじめジュニアから素晴らしい選手がたくさん上がってきています。年寄り扱いされるけど、僕もまだ20歳なんですよね(笑)。年下だからという気持ちは全然ないし、むしろやっとシニアの舞台に来てくれてうれしいです。僕自身、まだ(金が跳べる4回転)ルッツを試合に組み込むまでできていないし、(4回転)ループも確率が上がっていないので、研究させてもらっています」


「圧倒的に強くならないといけない」


 自身を脅かすライバルが増えるほど、羽生の細胞はうずき出す。「成長したい」という欲求はとどまることを知らない。見据えるのは連覇が懸かる2018年の平昌五輪だ。


「いつかはSPで4回転を2本入れないと勝てないなと思いました。自分のプログラムの中では4回転を2本入れてしっかり加点をもらえる入り方、下り方をして、その上でステップ・スピン・表現力などいろいろなところで全神経を使いながら滑り切る。それが確実に平昌五輪までに必要になってくるし、現王者として連覇するためにも『圧倒的に強くならないといけない』と思っています」


 FSでは4回転を3本組み込む構成が予想される。ミスなく演じ切れば、ISU公認スコアにおいて、合計得点で史上初の300点超えが視野に入ってきそうだ。しかしSPの結果が良いときほど、FSは難しくなるもの。実際、羽生もソチ五輪のSPで100点超えを果たしながら、FSではいくつかミスを犯し、あわや逆転を許しかねない状況に追い込まれた。だからこそSPの得点にも浮かれず、すぐに「明日がある」と切り替えられたのだろう。


「まだまだできることはいっぱいあると思いますし、これがゴールではないです。今後も挑戦しながら頑張りたいなと思っています。FSに関しては久しぶりに気持ちを楽にして臨めるなと思うと同時に、気を引き締めてしっかりと楽しみながら、できることをやりたいなと思います」


 油断や慢心はない。進化し続ける五輪王者の目はすでに未来へと向けられていた。


http://sports.yahoo.co.jp/column/detail/201511280001-spnavi?p=1