試験観察で補導委託をお願いする委託先は、民間施設です。


実際に訪問すると、「委託先」とか「施設」といった言葉からくるイメージとはうらはらに、小さくって、住宅街の中にあって、うっかりすると普通の住宅にみえる建物だったりします。



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そこでのクリスマス会は、施設の中でも一番大きい広間が会場になります。


20畳…30畳ぐらい…ちょっと記憶がはっきりしませんが、前にステージというかひな壇が作ってあって、観客は目の前の畳に座ります。


観客は…3分の1ぐらいが調査官などの家裁関係者、残りは少年たちの父兄です。全部で…30名?かもうちょっと…


なにしろ、畳の上にぎゅうぎゅう詰めです。


部屋の中は、手作りで飾り立ててあります。




会が始まりました。


進行は、施設長が、カラオケ用のマイクを持ってやります。


演し物は、歌とか、作文の朗読とか、そういった素朴なものを施設に入っている試験観察中の少年(女子)がやります。

学芸会のような雰囲気がありますが…近所の保育園の子供達が来て歌を歌う…といった演目もありました。

日ごろ、施設と交流があるそうです。

小さい子どもを前にすると、…かつて恐喝や強盗などの非行をした彼女たちの表情が、やっぱり変わります。

彼女たちが自分で作った台本の劇がメインの演目でした。


観客の中の調査官も、ステージに上がります。

歌を歌った調査官たちもいました。


広間といっても、観客も合わせて何十人もいるので、相当に狭いんです。

ステージに立つ彼女たちは、すぐ間近にいるわけで、…そのせいか、開演早々、観客席というか桟敷席というか、…父兄席か、父兄席には涙を流している方が多かったです。


クリスマス会ですからね、雰囲気がいいんですよ。


隣に座ったヒヨコ調査官をみると、彼女も涙をぬぐっていました。


わたしも、実際にみて感じましたが、日ごろの施設での生活の成果を父兄に伝えたい…という目的意識があって、なかなかイイ会なのです。

説教じみたことを言わずに、ただ、照れくさそうに歌を歌ってひっこむ調査官も、いい…。



最後は、彼女たちが、来てくれた父兄にそれぞれクリスマスカードを手渡して、お礼を言うという挨拶で閉幕です。

これは、桟敷席にいるそれぞれの父兄に彼女たちが一斉に歩み寄って、それぞれ、手渡しで気持ちを伝えるわけで、一応、これがクライマックスということのようでした。

「がんばりなさいねぇがんばりなさいねぇ」

そう言って泣いている親御さんばかりです。






あっ…



そういえば、れーかちゃんには、両親がいないのでした。


「今日は、れーかちゃんのおばあちゃん来てるの?」


隣のヒヨコ調査官に聞くと「何ヶ月か前から入院しているんです」と言われました。


「じゃあ、今日は彼女に会いに来てる家族はいないわけ…」


そう言って前を向いたら…

















目の前にれーかちゃんが立っていました。


泣いています。


「今日は本当に遠いところをお越しいただき、本当にありがとうございました。ヒヨコ調査官から、絶対ジェイ裁判官が来てくれるからって言われていたので、とても嬉しかったです。」


彼女はそう言いながら、クリスマスカードが入った封筒を差し出しました。


表に、クリスマスツリーの絵が描いてありました。


まるで小学生が描くようなクリスマスツリーでしたが、色鉛筆で、丁寧に色づけがしてありました。


「あ…いや…」


そう言って言葉に詰まりました。


「わたしも嬉しい~~」 ヒヨコ調査官はそう言ってなぜか号泣しています。


「ばーか」 照れ隠しにヒヨコ調査官に言って、


「ありがとう」


とれーかちゃんに言いました。





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本当は、この時、後任の裁判官がれーかちゃんの試験観察の担当になっています。


その裁判官は差し支えのため来られない…とは事前にヒヨコ調査官から聞いていました。


「だから、その代わりなんだろう?」


とヒヨコ調査官に言っていたのですが、後になってみると、ヒヨコ調査官が仕組んだことだったのかも知れません。





とにかく、すでにこのケースは自分の手を離れていたので、最終的な終局処分をわたしがすることはできないです。

わたしの担当は、すでに試験観察にする決定を出したところで、異動のため時間切れだったわけです。

なので、れーかちゃんの話は本当にそこでおしまいだったのですが、何人かの方から続きを待つコメントやメールをもらううち、その後のクリスマス会に行ったのを思い出して、それが一応の続きというか番外編になるか、と思って書きました。


その後、終局処分がどうなったか、再非行があったか、今どうしているか、まったく知りません。




家裁では、再非行で戻ってくるケースは扱いますが、立ち直ったケースのその後は扱いません。


頑強に否定したがる人が居ますが、しかし、中には立ち直るケースがあるんです。




再非行率は100パーセントじゃないしね。