谷中(215) | シンクロニシティ

谷中(215)

6月9日()



  精神分析振興財団の「産業メンタルヘルス」のシンポジウム。懇親会やら2次会で飲んで酔眼朦朧。


記憶の中の風景―1

 レオンチアージスの風貌の男がいて、マンドリンをひくおじいさんが歌を歌ってガリ版刷りの歌集を売って、チンチン電車が走り、紙芝居のおじさんが子供を集めて「黄金バット」をうなっていた。

  そんな時代の町がいつの間にか、書きかえられている。書き換えられるまえに何があったかは記憶の海に沈んでいる。そいつを引っ張り出して書き遺す。哀借を込めて。

 

一方通行の出口と三崎坂を上がりきったあたりの4つ角。八百屋があった。酒屋があった。30年くらい前から小さな自動車修理工場もあった。角の八百屋ではMちゃんが「誰か嫁に来ないかな」と呟いていた。近所のひとはみんな知っていた。Mちゃんは八百屋の身内だがはぐれもので、知恵遅れ気味だった。亡くなった家内などは長男に勉強しないとあんなふうになっちゃうよと諭していた。今から考えるとひどい偏見がふくまれていた。

  その角の一帯はモダーンな店構えの骨董屋。藍染した絹織物をつかったブチック。マンション、貸しギャラリーなどに変貌した。泥くさい下町風景は洗練された谷中らしからぬものになった。バーも骨董屋のまえにひっそりとできているが、これはいつのまにかできたという感じ。一度はいったことがあるがカウンターだけの店で、場所柄にもかかわらず、結構フアンがいるらしい。不特定多数の誰かが自分だけの特別の巣とおもって利用しているのだろう。