この物語はフィクションです。

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こんな近くに日本海海鮮料理のお店があったなんて知らなかった。

こじんまりとして喧騒とは無縁。松の内だからなおさら静かだ。

個室のしつらえで高そうだけど…

「へっへー♪ ちょっと穴場でしょ。今日は開いてるってたまたま知ってたのよ」

自治会の先輩に連れてきてもらったという。それはデートなのでは?

「さあどうだろう? 私も年上は好きだからさ、喜んでごちそうになったよ」

「ごちって! 安くはないよね」

「まあ、お酒だけおごってもらって、食事は割り勘って感じ」

はっと思いついたように付け加える。「あ、今日はね、お酒代くらいおごってあげるよ、大人と違って、私はまだ『お年玉』もらってるからさ!」

そんなおごりもらえるか!

 

飲み物もそこそこに、うずうずした様子で聞いてきた。

「学祭に来たときはこれからって雰囲気だったよね。いつ成立して、いつ破局したの?」

俺は、うっと息を詰め、はぁぁと肩を落とした。

「学祭初日に成立して、大みそかに完全に終わったんだよ」

「えっ、展開早っ」外池はのけぞった。

「俺がバカだったんだよ…成長してないんだな」

 

それからはほとんど茶々も入れずに、相槌だけを打ちながら、長い長い話を(順不同で、聞きにくかったと思う)聞いていた。

時系列が行きつ戻りつしたり、途中で涙とハナを拭いたり、もうめちゃくちゃだった。

なのにまあ辛抱強く、もしくは興味津々で聞いてくれた。

 

『彼女には高校時代からの付き合いの彼氏がいるけれど、彼氏はいろいろ悩んでいたようだ。

鬱っぽくもあった。彼女は励ましたり支えたりしていたけれど、疲れ果てて関係を解消するかどうかというところまで悩んでいた。

祇園祭のとき、3人で打ちに泊まりに来ていた。

学祭初日の夜、友人公認(?)でうちに彼女が泊まった。

抱き合ったけど、キスもセックスも我慢した。

けれど、彼と別れて俺と付き合う決心をしてくれて、朝、キスを交わした。

(しかし病んでいる彼氏への話は普通の別れ話以上になかなかしにくかっただろう)

俺と毎日のように電話で話をしたがった彼女を、実習中で気持ちがささくれ立っていた俺は、受け止めるどころか不用意な言葉で彼女を急かせてしまった。

彼氏が、その別れ話の最中に飛び降りをした。

彼女は、その看病を通じて、彼氏のもとに戻る決意を固め、大みそかの夜、俺は松山で振られて帰ってきた。』

 

「それだけじゃないんだ… 実家に年賀状が来ててさ。別れた前の彼女から『結婚しました』だって。完全に打ちのめされて。なんか、復讐だって感じて」

「復讐?」

「恨んでなけりゃ、元カレに結婚通知なんて送るかい? あなたがくれなかった幸せを、この人と作っていきますって宣言みたいで…あなたは失格ってことだろ?」

外池は首をかしげながら聞いてきた。

「何か書いてなかった? 元気ですかとか、頑張ってますかとか…」

あ。そういえば書いてあった。けど、それが?

 

「大澤君。別に嫌われてないわ。どっちかっていうと、あなたのこと大丈夫かなって心配してる。『私のことは安心してね、でも私があなたのそばにいてあげられなくてごめん』って感じかな」

「?」

「憎くて別れたんじゃないのよ。この人は幸せになれるのかなって、純粋に気にしてくれてるんだわ」

「心配…」

「かたくなすぎるところとか。女の子を信じ切れていないとことか」

俺は驚愕の表情になったようだ。一瞬外池がびくっとする。

「もう、びっくりさせないでよ。ほんとにオーバーリアクションだったら」

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橘いずみ(現・榊いずみ)は「失格」「永遠のパズル」「GOLD」などが印象的なアーティスト。セリフのような、あるいはたたきつけるような、歌詞も曲もかなり好きです。

♪あなたは失格! と叫ぶセリフが若き自分に堪えて、パソコンのシステム音に使っていたりしました。誤操作のたびパソコンから「あなたは失格!」って…

 

(2分40秒のあたりでシャウトです)