この物語はフィクションです。

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一人で目覚めた。

悪い夢ならよかったのだが、あいにく腫れぼったい目は隠しようもない。

目を冷やし、顔を洗う。

真美は、もう、俺の横にはこないのだな。

夢にも出てきてくれなかった。

帰省の途に就く。あまりに体はだるくそして重く、気持ちは空しく寂しい。

瀬戸内の青と白が、どこまでも悲しく沈んで見えた。

 

実家で、年賀状をいくつか渡される。

昨年、昔の付き合いで実家にくれたものには、現住所を知らせたが、まだ今年もちらほら届く。

その中に思い出せない女性の名前があった。

高瀬春子…

「結婚しました」と印刷してある。

手書きで「元気ですか。頑張ってください。」と書いてあり…

はっと気づいた。

はるこ! 内田春子!

退職のときに別れた彼女だ。2年たつのか。

姓が変わっていたから一瞬わからなかったのだ。

お相手は俺の知らない人だった。たくましそうないい男じゃないか。歳上かな。幸せだろうか。

なんで別れた男にこんなものを送ってきたのだろう。

まるで当てつけ…いや、これは復讐だ。

 

私が選んだのはこの人です。あなたがともに歩んでくれなかった人生をこの人と歩いていきます。

 

そんな声が聞こえたような気がした。

ささやかな復讐だったのかもしれない。しかし、タイミングは最悪だ。

ダブルショックから、しばらく立ち直れそうにない。

俺が悪かったんです。未熟で勝手だったんです。申し訳ないです。

どうか幸せになってくださいどうかお幸せに…

呪いから逃れるように必死で祈りの言葉をつぶやく。

こんなに心の痛む正月は初めてだ。

 

親が、俺に電話だと呼ぶ。

電話? 俺に? 実家に? こっちの友達だろうか? 今日はどこにも行きたくない…

「もしもし」

「あけましておめでとう!」

「外池か! あ、お、おめでとう…」

なんだ?

「こっちは雪だよ! あとカニ雑煮してるよ! 今から来ない?」

「金沢…へ? いくわけないだろ」

「あっははは、そうだね~ ところでっ 元気出しなよっ」

「!……」

そうだった。こいつには最悪の顔を見られているのだ。

でも、今は輪をかけて悪い顔だと思う。

 

「いつの何時に戻るの?」

「明後日には…でも時間なんかわからないよ」

「出る前に電話ちょうだいよ! じゃあね、今年もよろしく!」

「え、おい、勝手に…」

切れた。なんてテンションだ。飲んでるのか?

カニ雑煮ってなんだ。贅沢そうな…

掛けろって言われてもどこにかけるんだ? 電話番号知らないし。

 

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「わっ」

目の前で電話が鳴った。「はい、おおさわです」

「あー大澤君、私の電話番号はね」

勝手にしゃべりだした。一方的にしゃべって、切れた。

旧都の方の市外局番だ。明後日には戻ってるってことなのか。

はあ。

別に会いたくない… 誰とも…

いや、外池ならいいか。どうせまっすぐ帰っても話す相手もいないんだ。

なんだかやつは何でも聞いてくれそうな気がするんだ。気が紛れるんじゃないか?

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大澤君ってば真美さんと2回しかキスしてないんですね…

不憫な奴。ま、もとはといえばいろいろとお前が悪い!

書く人もつらかったです。

なお連載の途中ですが、大澤君は元カノの名前を思い出したようです。

内田春子さん、よかったですね!