この物語はフィクションです。

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もう冬休みに入って、初雪の便りが金沢から届く。

凛は、人生について悩みながらも、楽しいことは素直に楽しく受け入れているようだ。

はしゃぐというほどでもなく静かな筆致だが、友達とクリスマスの準備とか前年にはなかったトピックスが並ぶ。

皮肉なことに、彼女を励ました俺が、今は不安のどん底だ。

筆を軽く滑らせて返事を書いていたのが信じられない。

何を書こう。

心配を掛けたくない。俺の苦しみに巻き込みたくない。

凜への返事が、書けないでいる。

 

 

どれほど自責の念が深くても、一人では悩み続けられないということを思い知った。

自分との対話だけでは袋小路だ。

今どうなっているのか。様子を聞きたい。

せめて、声を聞きたい。

とうとう思い切って電話を掛けてみた。

留守番電話だった。

「ずっと一人で考えています。何が悪かったのかとか。とにかく話しをしたい。真美の気持ちを聞きたい。俺の気持ちは変わらないでいること…それが正しいことなのかどうか」

もし電話がかかってきたら、言おう。

会いたい。

そうだ、松山へ行こう。

 

果たして、電話はかかってきた。

「電話ありがと、さわにい。ごめんね、しばらく連絡できなくて」

思ったよりすっきりした声だった。

「調子はどう?…ああ、いろいろとさ」

「うん…? 忙しいかな?」

「なんで疑問形なんだよ」

少し笑った。

 

病院にもしょっちゅう行ってる。だから忙しい。

 

けれど、慣れた。人に言われなければ、忙しいのだと気付かないくらい。だから疑問形。

 

「ね、俺、会いたい。ちゃんと話したい。松山に行ったら、会ってくれる?」

「ん、いいよ。…てゆうか、ありがとう。会いに来てくれるのうれしい」

拒まれはしなかった。それだけを心の支えに、会いに行ける。

 

日帰りとはいかない距離なので、バイトの都合などで、帰省を兼ねて大みそかの出発となった。

昼過ぎ、松山駅に着く。

真美が手を振っていた。あの夏と同じようで違う。胸を衝かれる。

「案内します。どこ行こうか?」

松山城まで15分ほどだというので、二人で歩き始めた。

間抜けなことに、手袋をしているので、手をつなげないままだ。

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前書きとあとがき入れ替えました。初めにくだくだ書くと物語に没入しにくいかと思ったので。

タイトルもご賞味ください。

そしてよろしければ、「末の松山」についてお調べいただくと、東日本大震災にも思い馳せることになるかもしれません。