*すみません、第1稿で結びに「おおむねフィクションです」とやったのですが、今回の記事がそうだという風に読み取られかねませんので、大急ぎで外します。

しかし、次入れるときは、「この回のどこかに事実が含まれている…」と言われかねないですね。

やっぱり小道具の使い方は難しい。

~~~~~~~~~~~~

果たして、電話が掛かってきた。ため息をついてしまった。受話器をとる。

「ねえ…今日は土曜日だからいいかと思って」

「あと1週間待って…」

「1週間も?」

泣きそうな声が聞こえた。

俺だって人生の岐路だ。今は時間が欲しい。ついいらだってしまった。

「他に何かやることないの!? 1週間でなんでもできるだろう」

「何かって…」

「話を進めるとかさ」

息を飲む気配。

「う…うん」

「俺は待つだけだよ」

「そうなんだけど…」

「そりゃなかなか話できないよね。だってケージとは」

一瞬で電話が凍り付いた。

 

言ってはいけない言葉だった。口には出さなかった。しかし。

カレトハ シタンダロ。

言わなかった言葉が二人の間に響く。

 

「…歴史があるんだものね」ようやく絞り出したが、真美の声は沈んだ。

「私が…初めてじゃないこと気になる? いやになった?」

「そ、そういうんじゃないんだけど!」

いらだつような言葉を浴びせてしまった。逆効果だ。

「経験なんて、そんなの大丈夫なんだ… ほんとに。それにお互い様だよ、それは… 俺だって」

言いたいことはちゃんと伝わるのか。

言葉にすればするほど空回りしている気がする。

気持ちだけを確かめ合った二人は、気持ちだけでつながっている。

確かなもの、信じられるものがないのだ。

彼女に生まれた疑念をどう払拭したらいいのだろう。

「大丈夫、待てる、俺は待てるんだ」

 

「ねえ、私のこと、好き?」

「確認なんかしないでよ! 好きだよ、それは間違いないよ」

「うん。ありがとう」涙声でいう。

「明日、ケージに言ってみる。ちゃんと別れる」

「あした…」

急ぎ過ぎてはいないか? 俺が背中を無理に押した、いや、蹴とばしたのではないか。

少し待った方がいいのではないか。

しかし、唇を離れた言葉は

「わかった」だった。

 

1週間、電話はかかってこなかった。

気まずいため、自分から電話も掛けられなかった。

自分の恋のために、誰かの不幸を願う気持ちは、これほど苦いものか。

気になりながらも、実習を何とか立て直し、辛くも切り抜けたのだった。

現金なもので、そうなると、真美の声が聞きたくてしょうがなくなってしまった。

たくさん謝ろうと思いながら電話をしてしまったが、留守だった。録音を残して切る。

「実習、終わったよ。いろいろごめんね。電話ください」

 

その夜、かかってきた真美の声の重さ、黒さ。

絶望した声というのはこういう声を言うのだ。

「さわにい…ケージね、今病院なの。入院してるの。彼。飛び降りたの」

~~~~~~~~~~~~

この物語はフィクションです。