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朝晩は冷え込むようになった。

旧都にももうすぐ雪が降るだろう。

もう真美からの手紙は届かない――電話をくれるようになったのだ。

「ねえ、マコトとサヤカも応援してくれてるのよ!」

「うん」

「でも他にはまだ言えないの…ごめんね?」

「うん」

「あー、世界がみんな敵じゃなくてよかった」

「ごめんね…」

「なんで謝るのよ!」

「誘惑した責任かな?」

「あっはははは! 誘惑? うん…されたされた!」

「手紙でね」

「私は手のひらで…かな」

「ば…か」

 

そして。

「会いたい…」

「遠いね…」

「寒くない?」

「温めてよ」

「好きだよ」

「好き」

輪舞(ロンド)のようにどちらからともなく同じ会話が回り始める。

遠距離の恋愛には必要不可欠な道具を挟んで、何十回交わされたかしれない。

 

学園祭の模擬店は大当たりだった。

かなりの儲けが出て、出資金と配当、そして、打ち上げまで賄えるのだ。

しかし、まもなく4週間の病院実習が始まる。

これを乗り切った後で、楽しくみなで集まろうと励ましあい、病院実習を迎える。

 

クラスの学生は皆、朝早くから、実習地の病院に向かう。

1日中、バイザーやその他の職員にかわるがわるつかせてもらう。

患者・患児の治療に同席し、観察・分析によってノートを作成する。

そのフィードバックをもらうことによって、「診方」や「分析」を学んでいくのだ。

また、担当症例も決めて症例報告も作っていかなくてはならない。

毎夜実習のレポートや分析が大変だ。

深夜過ぎまでレポートを書いて、朝には家を出なければならない。

書いたレポートにまた返事が書かれ、調べなければならない。

今日の分も書かねばならず、書くことは増えるばかりだ。

実習を落とされたら、よそは知らないが、うちでは留年だ。

 

この期間中は睡眠不足との戦い。

一応説明はしているものの、真美は電話を掛けてくる。

初めは弾んだ声で電話を受けていた。しかし、日がたつにつれ、だんだん焦りが出てくる。

正直、今日あったことを報告されたり、友人の愚痴を聞かされても、真剣に相手をする余裕がない。

かといって、重大な話がでて時間が取られるのも今は困る。

事態が沈滞しているのは痛し痒しといえる。

「うん、ごめんね。今日はあと10分」

……

「今日は30分で切らせて…」

……

平日は留守番電話のメッセージにも応答する元気もない。

なぜそんなペースで電話を掛けてくるのか、俺は考えていなかったのか。

彼女の不安な気持ちを俺は気付いていただろうか。

 

3回目の土曜日。

バイザーにしこたま叱られて、気持ちがささくれ立っていた。

――全力をつくしてない。

――真剣みが感じられない。

俺にだって、人生経験がないなりに、現在の精一杯の自分で言い分はある。

(全力の出し方というか、あなた方の望む表現の仕方がわからないのです!)

(難癖とかしごきにしか思えません!)

(のちに他の学生経由で、俺が脱サラという色眼鏡で見られていたことが伝わってきた)

土曜日だから、真美は電話を待っているはずだった。だが、掛ける気が起こらない。
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この物語はフィクションです。