河童むかし、むかし、ある所に父親と三人の娘が暮らしておりました。
たいそうなお金持ちで田んぼをたくさん持っていました。
ある年のことです。
何ヶ月も雨が降りませんでした。
土地が乾き、米を作ることもできません。

「田んぼに水をいっぱい入れてくれる者はいないかの。そうしてくれたら、娘をやるぞ。」

こんな独りごとを乾ききった田んぼで言うと、河童が目の前に現れました。

「その仕事、おれが引き受けた。田んぼに水をいっぱい入れたら、娘をくれると約束するな。」
「うそはない!できたら、娘をくれてやる。二言はない。」

と父親は、笑いながら言いました。
次の日、驚いたことに、田んぼにはあふれんばかりの水が入っていました。
父親は、喜びもつかの間、あの約束を思い出しました。

「困ったぞ!どうしよう。でも約束は約束だ。」

家に戻ると、まずは一番上の娘に頼みました。

「河童との約束だ。頼む。」
「何を言ってるの。嫌よ。絶対。人でなし。」

大変な剣幕です。
次に二番目の娘に頼みました。

「河童との約束だ。頼む。」
「どうしてそんなことを言うの。もちろんお断りします。お父さんなんか大嫌い。」

またしても大変な剣幕です。
最後に三番目の娘に頼みました。

「河童との約束だ。河童と結婚してくれ。」
「河童とは結婚したくないわ、でもお父さんの約束だわ。約束を破ることはよくないわ。言うとおりに結婚するわ。」

と娘は悲しげに答えました。

「ありがたや。お前はこの世でもっとも優しい娘だ。欲しいものは何でもあげよう。何が欲しい。」
「それでは、瓢箪(ひょうたん)を百個欲しいわ。」

父親はとなりの家々から瓢箪を数だけ集めました。
次の日、ハンサムな男の人が訪れてきました。

「娘さんのお迎えに参りました。」
「お父様、この人と一緒に参ります。」

娘は、瓢箪百個が入った大きな風呂敷を、背中に担いでいました。

「あの人、本当に河童かしら。」

二人の姉は妹をうらやましく思いました。
二人は、湖のほとりまで来ました。

「私の家は、お分かりでしょうが、この湖の中です。さあ、行きましょう。」

と彼は、娘の手を引きました。

「河童さん、ちょっと待ってください。お願いがあります。この瓢箪がとても大切な花嫁道具です。まず始めに、この瓢箪を家まで持って行ってください。」
「お安い御用です。」

河童は、瓢箪を湖の上にまくと、水の中に飛び込みました。
瓢箪を沈めようと必死ですが、軽くてすぐに水の上に浮かんでしまいます。
花嫁道具を持っていくことは大変なことでした。
そうこうしている内に、元の河童の姿になってしまいました。

「だめだ。人間と結婚するのはよそう。河童の娘と結婚しよう。」

河童はそう言って湖の中に消えて行きました。
父親は娘が無事に帰ってきたのを心から喜び、こう言いました。

「この家の跡取りはお前だ。」

二人の姉は父親に詫びましたが、もう後の祭りでした。