伝説の街・本牧 | 売文社のブログ

伝説の街・本牧

先日、ヨコハマ経済新聞編集部 のM輪くんとM瀬さんと一緒に本牧 へ行ってきました。

米軍基地ありし日の1960年代の本牧は、音楽やドラッグ、ファッションなどのアメリカ文化が基地経由でいち早く入ってくる最先端の街でした。しかし、82年に米軍が去ってからは寂れる一方の今や「伝説の街」です。

元町から麦田トンネルを抜けるとそこはアメリカだった…なんてのは昔の話で、今では当然そんなことはなく、うらぶれた街並みが眼前に広がるだけです。なもんで、今回はいつもの元町からのルートからではなく、港の見える丘公園からワシン坂を下って小港へ向かうことに。

のつもりでしたが…。どういうわけだか道を間違ってしまい、新山下へ出てしまいました。そこで見晴トンネルを抜け北方町、本郷町を経由して本牧通りへ出ることに。

ちょうど小腹も空いてきたので、山手警察署向かいのジョナサンで昼食を摂ろうとすると、「もっと本牧らしい雰囲気のあるところで食べましょうよ」とM輪くん。最近『本牧ドール』(高橋咲/著) 『天使はブルースを歌う』(山崎洋子/著) を読んで本牧にカブれているM輪さんは、ちょっとイヤな感じです。

これが「死のメニュー」 しょうがないので、アメリカンな雰囲気が横溢するMOON Cafe へ。オーダーしたのは「ジ・エルビス」という期間限定メニュー。ピーナッツバターを塗りたくったトーストで、ソテーしたバナナとベーコンを挟み込んだサンドウィッチ。食事なのかおやつなのか、訳のわからん料理です。 


今年はエルビス・プレスリーの30回忌。このサンドウィッチはエルビスの大好物で、エルビス事情に造詣の深いM輪くんによると、エルビス母のオリジナル料理なのだそう。そして、エルビスはこれとドーナツの食べ過ぎて死んでしまったという、いわば「死のメニュー」。

で、実際にピーナッツバターがしたたる現物を目にすると、確かに死んじゃいそうなくらいカロリーが高そう。ピーナッツバターとバナナの甘さで、ベーコンの味がほとんどわかりません。何のためにベーコンが挟んであるのか、全くもって意味不明です。隠し味にもなっていない。

満腹感はありますが、満足感はありません。

MOON Cafe史上、最短の期間限定メニューになりそうです。


次に向かったのが、間門にあるBoogie Cafe


ブギーカフェ このBoogieとそこに隣接するBOOGIE STUDIOとその階上にあるBLACK MARKETを経営するCHIBOさんは、その昔はパワーハウス、現在はthe Mojos というバンドで活躍する本牧の「伝説の男」です。『本牧ドール』に登場するゴローとはこの人のことで、今も昔も本牧のリーダー的な存在。クレイジーケンバンド 横山剣もリスペクトしているそうで、Boogieにはその剣さんもよく訪れます。

このBoogie Cafe、店内には古いR&RやR&B、ブルースが流れ、アメリカンポップな内観なのですが、その雰囲気とは裏腹にいつ来ても他所者には敷居が高い。店というよりはCHIBOさんとそのお仲間たちの溜まり場に近いノリなのでしょうがないのですが門外漢にとっては居づらいことこの上ない。初BoogieのM輪くんなどは、早くも居たたまれない思いをしているようです。

「奴ら、接客業をナメてますね」と、疎外感に苛まれているM輪くん。

いやいやM輪さん、アナタが本牧をナメているのです

「開放的」と言われるハマっ子ですが、そんなのは大ウソです。


ここいらに住んでいるのは、「中華街と麦田トンネルから根岸までしか本当の横浜と認めない」という極めて排他的な人たち。そんな排他性には辟易してしまいそうですが、それが本牧というものです。

そんな2人して居たたまれない思いをしているところへ、ドレッドヘアのチョイ不良どころか極悪そうなオヤジと妻、娘の一家がご来店。極悪オヤジは見たところ50歳代前後ぐらいでしょうか、堅気のニオイが全くしませんが、いかにも本牧な感じのカッコいいオッサンです。

「CHIBOちゃん、いる?」とサングラスをはずしたそのお顔は…、なんとジョー山中 でした。GSの491(フォー・ナイン・エース)、内田裕也がプロデュースしたフラワー・トラべリン・バンドを経て、その後ソロとして映画「人間の証明」のテーマ曲で大ヒットを飛ばし、現在は何をやっているのかわからないジョーですが、こんなところで出会うとは…。

しかし、山中さんは1946年生まれだから、今年で御年61歳のはず。異様に若い。どう見ても40歳代後半にしか見えない。お色気ムンムンの奥さんは30歳前後だし、娘さんなんて3歳ぐらい。年齢的にいえば娘と孫みたいな感じのはずなんだけど、全然そんな風には見えません。しかし、娘さんが成人した頃にはジョーは80歳、どうすんだろ!?

それにしても、このジョー&CHIBOという横浜を代表する2人の不良のツーショット、なかなかスゴイものがありました。現在の本牧がいきなり60年代にタイムスリップしたかのようです。いろんな意味で本牧の洗礼を受けたM輪さんは、ビール1杯しか飲んでないのにお腹いっぱいの様子。

リキシャルームBoogie Cafeで「伝説の男」との邂逅を果たした後に向かったのは、小港のリキシャルーム

ハマの遊び人なら知らぬ者はないという1961年オープンのリキシャルームは、数々の有名人たちが愛したこれまた本牧の「伝説の店」。昔は危険な雰囲気が漂うレストランバーでしたが、現在ではオシャレでシックな「大人のための空間」です。そして、いい店なのにいつ来ても閑古鳥が鳴いている。

ここから、M瀬さんが合流。先週はずっと体調を崩していたM瀬さんでしたが、「昨日、彼氏と久しぶりにセッ○スしたら体調が戻りました」と元気一杯です。本牧名物の四角いピザを頬張りながら、あっという間にタンカレートニックを2杯飲み干します。

この後、ゴールデンカップへ向かう予定でしたが、まだ開店していなかったので、向かいのIG で時間を潰すことに。

ig IGは、本牧の全ての文化はここから始まったとされる「イタリアンガーデン」の流れを汲むバー。イタリアンガーデンとは前述のリキシャルームのママさんのご主人が1958年にオープンしたレストランバーで、クレイジーケンバンドが誕生したのもこのお店。

この日はオーナー兼マスターの八木さんが留守で、店を切り盛りしていたのは英系5世のジミーさん。英系なのに生まれも育ちも生粋の本牧っ子のジミーさんと本牧の昔話に花が咲き、本牧かぶれのM輪くんもBoogie Cafeの時とは打って変わってご満悦です。

M瀬さんも、ジミーさんのイギリス人の血が混じったバタ臭い風貌と人当たりのよさに、「抱かれてもいい」とすっかり惚れ込んでしまった様子。養命酒の小さなカップみたいなグラスで、モルトウイスキーをストレートでぐいぐい呷っています。

彼氏が野毛でバーを経営しているM瀬さんは酒が強いだけでなく、酒にも詳しい。モルトウイスキーを銘柄指定でオーダーする女を初めて見ました。


もう女のオッサンか、と。

IGですっかりいい気分になった我々でしたが、調子に乗って飲みすぎたのかM瀬さんがここでダウン。彼女を家へ帰し、M輪くんと2人でゴールデンカップ へ。

ゴールデンカップ ゴールデンカップは1964年オープンの老舗レストランバー。当時はライブ演奏も聴かせていて、その専属バンドだった平尾時宗とグループ&アイが後のGSのゴールデンカップス です。

当時は流行の最先端だったゴールデンカップも、今じゃメシの美味いただのカラオケスナック。時の流れの残酷さを感じさせます。もっとも、今でも元カップスのメンバーたちがライブをやったりもしますが…。

とはいえ、オープン当初から現在まで全く変わっていない店内は、さすがに雰囲気があります。往時の本牧の雰囲気を現在に伝えるのは、今やこのお店だけ。そんな独特の「昭和な雰囲気」だけに、テレビや映画のロケに使われることも多いようです。最近ではオダギリジョー主演のドラマ「時効警察」のロケで使われていたので、目にした人も多いはず。

お店のスタッフも生粋(しかも、結構年配)の本牧っ子だけに他所者には冷たくて…なんてことは全くなく、調子に乗ったM輪くんのような若輩者のぶしつけな質問にも気さくに答えてくれます。

しかし、M輪さんは芸能人の噂話程度の認識で元カップスのメンバーの話をしますが、スタッフの人たちにとって彼らは顔見知りでご近所さん、話の内容次第によっちゃあ本牧住民全員を敵に回しかねません。ホントやめて欲しい。ゴールデンカップだから何事もなく済んだけど、Boogie Cafeだったら「伝説の男」に確実にブン殴られてるだろうな、この男は。死ねばいいのに。

ゴールデンカップ名物のとっても美味しいビーフシチューやらハンバーグやらを堪能していると、すっかり出来上がったM輪くんが店内で「セッ○スしてえ~!」とか、大声で叫んでいます。あまりに見苦しいので、名残惜しいですが店を後にしました。

JR石川町駅へ向かう道すがらの本牧通りでも、酔っ払ったM輪くんは最低でした。道行く女性をナンパしようとしたり、自転車に乗った小学生に因縁をつけようとしたりと、不良の街・本牧に似つかわしくない小っちゃな不良っぷりです。


同じ空気を吸うのもイヤになってきたので、無理やりタクシーに押し込んで本牧から強制退去を願いました。

そして、1人で編集部のある日本大通りのZAIM へ行くと、先に家へ帰ったはずのM瀬さんがなぜかトイレでズボンとパンツをずり下げたまま眠りこけていました。

「酒は飲んでも飲まれるな」――陳腐ですが、こんな当たり前の言葉をあなたたち2人に贈りたい。