いまや、どの大学でも話が出るSD(スタッフ・ディベロップメント)。


5年ほど前にはほとんど聞くことのなかった言葉が、

気がつけば大学職員間でのキーワードのようになっている。


もともとはFD(ファカルティ・ディベロップメント)が話題になり、

ならば職員の方も必要なんじゃないの?という流れから広まったと記憶している。


さて、では具体的にSDって何やっているの?となると、実はこれほど答えが微妙なものはない。

というのも、FDは授業改善のための組織的な取組みとして、授業評価など学生への教育効果を高めるというひとつのゴールに向かっていくことがてきるのだが、SDの場合は職員の能力開発というだけで、すべての職員に共通するゴールを作りづらい。

あえて共通のゴールを作るなら、大学をより良くしていくための能力開発となるが、それはどの会社・組織も当たり前にやっていることなので、あえてSDという言葉を使うことが若干恥ずかしい。

具体的なSD事例で、注目すべきほどのものを私はまだ知らない。


なので、本来は人事課が考えるべき職員研修それ以上の意味などないのではないかとも思うのだが、

大学は学生に教育する組織でありながら、職員を育てることについては必ずしも上手ではない。

新人の研修制度でさえ整備されていない大学も少なくない。



さて、ではこのSDという言葉は使えないものかというと、そうでもない。


まず、一般の企業であれば、新人研修や管理職研修というものは人事課の仕事である。

しかし大学では、このSDという言葉で人事課以外の人間でも研修の実施が可能になるのである。

基本的に新しい試みには、逃げ腰になりがちな組織にあって、

「SDになりますから」という一言で、前向きに話が通るというのは、これほどありがたいものはない。


ということで、そのあたりを使って実施した若手勉強会の事例を。



①若手勉強会の目的

新人が個別業務に張り付いてしまい、大学全体について学ぶ&刺激を受ける場ができていなかった。

モチベーションの向上と他部署の若手職員との接点を持たせる場を設定する必要があった。


②実施の概要

 1.毎週1回の全5回。

 2.勤務時間外に有志で実施。

 3.テーマは規程集の読み込みや大学案内の比較、入試動向など。


③実施の流れ

 1.とりあえず仲間を2人見つける。3人いれば会として成立する。

 2.ゴールを設定する。実施することで何の実現を目指すか。

 3.仲間と内容を検討する。極力堅さを省き、参加へのハードルを下げる

 4.各部課長に企画案を示し、実施の了解と課員参加の協力を依頼する。(該当日は残業を抑えてもらう等)

 5.講師役を該当課長に依頼。

 6.実施。仕事の関係で参加者が少なくても気にしない。

 7.勉強会後の懇親の場を用意。これに誘われて途中参加してくれる人も。



こうした有志の集まりは、正直言って蓋を開けてみないと、どの程度集まるかは分からない。

ポイントは極力テーマにひねりを加えて、面白みを醸し出すこと、そして企画者本人がわくわくして話をすることだろう。企画している人が楽しそうなものに失敗はない。


イベントを企画するときには、必ずどの程度集まるだろうかという集客に気が向く。

しかし活発な議論に意識を向ければ、人数はそれほど気にならないものである。

結果として一人でも良かったと思ってくれる人がいれば充分なのである。


大学の話題が入試一色になる時期になんですが。

以前から気になっていた大学のウェブサイトについてのお話。



10年前には、手作り感いっぱいのウェブサイトが溢れていた大学も、

情報公開のススメもあり、かなり整備されたと感じる。



さて大学サイトを制作する際にも、やはりユーザビリティがキーワードになってくる。

この点については、日経BPが「全国大学サイトユーザビリティ調査 」を毎年行っており、

調査結果のランキングが比較的メディアで取り上げられることも多いので、

その基準は各大学で参考にしているのではないだろうか。


こうした流れもあって、各大学のサイトも洗練されてきた印象ではあるのだが、

アメリカの大学サイトと日本の大学サイトを比較すると、

実はトップページの作り方に違いを見ることができる。


気がついた点を4点を挙げると、


① 対象者別メニューの有無

日本では多くの大学が「受験生向け」「在学生向け」「卒業生向け」といった対象者別のメニューを設置している。アメリカの場合、グローバルメニューの中に「Alumni」や「Admissions」はあるが、対象者別メニューはない大学も多い。

(ex. 立教大学: http://www.rikkyo.ac.jp/  / NYU: http://www.nyu.edu/  )


② FLASH使用の有無

日本では写真やメッセージをFLASHを使って紹介する大学が見られるが、アメリカではあまりない。
(ex. 専修大学: http://www.senshu-u.ac.jp/  / Princeton University: http://www.princeton.edu/main/  )


③ スクロールの有無

日本の大学サイトではニュースやイベント情報が多く、縦に長い構成が多い。アメリカの場合、スクロールせずとも見られるような、簡潔なまとめ方がされている大学が目立つ。
(ex. 京都大学: http://www.kyoto-u.ac.jp/ja / MIT: http://web.mit.edu/ )


④ バナーの有無

日本ではトップページに様々なバナーを使って導線を貼ることが多い。一方でアメリカのサイトでは、グローバルメニューに集約しているサイトが結構ある。
(ex. 北海道大学: http://www.hokudai.ac.jp/ / Boston University: http://www.bu.edu/ )


※ex.で取り上げた大学に、特に意図はありません。



どれも傾向であって、どの大学にでも当てはまる話ではない。


ただ、対象者別メニューの「一般の方へ」というのは、どの程度クリックされるのだろう?とか、何度もページを開くユーザーにとってFLASHは邪魔じゃないだろうか?とか、スクロールやバナーをなくしてシンプルにした方が、分かりやすいんじゃないだろうか?とか、そんなことを思うとアメリカのウェブサイトを参考にするのも良いのではないかと思うのだ。


実際には日本語と英語の違いもあるので、同じようなレイアウトができない部分もあるのだけれど、ユーザビリティを考えてサイトをリニューアルする際には、是非チェックしてほしいと思う。



と言いつつ、自大学では上記4点全てコミコミのサイト作ってしまっているのだが・・・


週末には大学入試センター試験。

2月からは一般入試も本格化してくる。

大学全入時代と言われる中で、大学が最もセンシティブになる時期でもある。


今年度は経済不況もあり、受験生の併願大学数も減ってくるのではないかと言われている。

また学費の高い私立大学は敬遠傾向が強まる可能性も高い。


となると、なんとか踏ん張っている大学にとっては、かなり厳しい結果となるかもしれない。



さて、大学の定員割れはよくニュースに取り上げられているが、

一般入試の現実については、意外に取り上げられることが少ないように感じられる。


そこで昨年度の各大学の入試結果を代々木ゼミナールがまとめているので、そちらを見てみると・・・


2008年入試データファイル(代々木ゼミナール)


実質倍率が1倍台の大学がかなり多い。

分かっていても、個別に見ていくと結構ショックなものだ。


AO入試や推薦入試において、学力検査が課されないことで、

学力担保に問題があるというのは新聞記事でもよく指摘されているが、

学力検査を課していても100人中99人が合格するのでは、学力を担保しているとは言い難い。



なので、推薦・AO入試で学力検査を課すようになっても、

上位大学以外は形式的な試験に終わってしまう可能性が高い。

(そもそも上位大学は評定平均などで学力担保とっているし)




そこで、逆説的に考えて。。。

定員割れしている大学では一般入試でも学力担保をやめたらどうかと。


みんなが合格する試験をするくらいなら、

オープンアドミッションにして、受験生それぞれの興味・関心を記入するアンケートと

生徒の持ち味が書かれた担任からの推薦状をもらって、

その学生の4年間のプラン構築の材料にした方が、受験生・大学双方にメリットがあるんじゃないだろうか。




ま、極論なのは承知で。



これができたら、むしろアメリカのAOに近づくんじゃないかとも思ったりして。



年末に、話題の「学士力」について中教審の答申が出された。


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大学生の学習目標「学士力」規定を 中教審が答申

ASAHI.com

2008年12月24日


 大学教育のあり方を議論していた中央教育審議会(山崎正和会長)は24日、「学士課程教育の構築に向けて」と題した答申を塩谷文科相に出した。大学生が共通で身につけるべき学習成果を「学士力」と規定し、大学が参考にできる指針を示していくよう国に求めたことなどが柱だ。高等専門学校の教育の充実を求める答申も出した。

 答申は、「大学全入時代」が迫る中、日本の大学が与える学位(学士)の質を保ち、国際的な通用性を高めることが狙い。知識・理解▽汎用的技能▽態度・志向性▽統合的な学習経験と創造的思考力の4分野で、コミュニケーションの能力や自己管理力など計13項目を学士力の指針として列挙。大学には、学位の授与を厳格化し、水準を確保していくことなどを求めた。

 答申では分野別の質保証の仕組みづくりも国に促した。文科省はすでに、日本学術会議に分野別の到達目標の設定などについて審議を依頼している。今後は学士力の指針などを参考に、各大学で学習成果を重視した教育を進めることが期待されている。

 大学入試をめぐっては、推薦入試や、面接などを重視して選抜するAO入試が広がり、学生の学力不足を指摘する声が強まっている。今回の答申では、大学の入り口段階での対応策として、高校段階でどれだけ学力が身についているかを客観的に把握するための「高大接続テスト(仮称)」の検討も進めるよう提言した。

 高専教育の答申には、地域の産業界との連携促進や、大学に編入する学生が増えていることへの対応などを盛り込んだ。

 一方、塩谷文科相はこの日、学校でのキャリア教育や職業教育をどう進めていくかを新たに中教審に諮問した。(大西史晃)


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学士力については、以前、素案段階において批判的に書いた。(学士力ってどうなの?

基本的な見方としては、当時とそう変わらない。


さて今回の答申で気になるのは、その学士力の話から

GPAをはじめとする成績評価の厳格化に話が及んでいる点である。


この点については、答申に興味深い記載がある。(「学士課程教育の構築に向けて 」より)


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4 成績評価

(1)現状と課題


(ア) 我が国の学士課程教育をめぐっては,卒業認定における評価の厳格化も大きな課題となっている。
評価の厳格化は,卒業時だけの問題ではなく,入学してからの教育指導の過程における成績評価についても,学生の成長という観点から考えなければならない。

(イ) これまで,文部科学省は,成績評価基準の明示,アメリカで一般的に普及しているGPA等の客観的な仕組みの導入を各大学に促してきた*1。しかし,修業年限での卒業率や中退率などの指標で見る限り,我が国の大学の成績評価が厳格化してきているとは言えない。中退者の少なさは国際比較でも顕著であり,そのこと自体は,否定すべきではないが,適正な評価が行われていない可能性も示唆される。

(ウ) 我が国の大学は,成績評価について,個々の教員の裁量に依存しており,組織的な取組が弱いと指摘されてきた。従来のままでは,大学全入時代の学生の変容に際し,学生確保という経営上の要請も相まって,なし崩し的に安易な成績評価が広がるおそれがある。


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先日の読売新聞「大学の実力」の特集で、各大学の退学率が掲載された。

退学率の高い大学については、厳格な成績評価等の理由があるにせよ、

退学率の改善は課題ではないかと感じたのだが、答申ではむしろ中退率が低いことを課題としている。


また「適正な評価が行われていない可能性も示唆される」とまで踏み込んでいる。

つまり教員の成績評価に「?」をつけているわけだから、明確な基準で成績評価を行っている教員は

怒ってしかるべきだと思うような内容である。


さて、導入すべきはGPAとしている。

答申にも注釈で書かれているが、既に4割の大学ではGPAが導入されている。

ただ卒業判定基準や退学勧告といった使い方が、あまりなされていないことを指摘している。



そこまで言わせるGPA(グレード・ポイント・アベレージ)とは何であろう?


誤解を恐れずに言えば、高校でいう評定平均に近い。

各科目の成績(グレード)を数値化(ポイント)し、取得単位数で割った平均値(アベレージ)である。

実は取り入れるだけであれば、そう難しくはない。

既存の秀・優・良・可・不可をそれぞれA,B,C,D,Eに振り分け、

A(4)、B(3)、C(2)、D(1)、E(0)と数値化して平均値を出すだけである。


課題は、その数値をどのように使うかである。ここがなければ意味をなさない。

答申の狙いは、このGPAを卒業基準に組み込むといった使い方。

至極まっとうである。しかし現実問題としては、その舵きりのタイミングが難しい。


アメリカでGPAが機能するのは、アドバイザー制度やシラバスの明確化、大学院進学時の評価項目など

それぞれが有機的に結びついているからである。

そうしたインフラを整えずにGPAだけを導入すると、本人の自覚がないままに退学になっていたり、

成績判定についての質問が山のように出かねない。


そのため課題を避けながらGPAを導入すると、結局形だけのものになってしまいかねない。


AO入試がアメリカのAOと全く異なる形となり、名前だけが残ってしまっているのも、

入学をマッチングとして捉える下地のない日本に、手法だけを持ち込んだ結果といえる。


同様なことがGPAに起こらないことを願いたい。

「学士力」と結び付けられて、早くもこんがらがってしまう心配もあるのだが。


大きなニュースとなった、駒澤大学の資産運用損失。

これまでに大学の資産運用による多額の損失という事態は日本ではほぼ事例がなかっただけに

特に扱いが大きくなったのではないだろうか。


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駒沢大、運用損154億円=金融危機でデリバティブ失敗

時事通信

2008年11月19日


学校法人駒沢大学(東京都世田谷区)が資産運用に失敗し、デリバティブ取引で約154億円の損失を出したことが19日、分かった。損失を清算するため、キャンパスの土地建物などを担保に銀行から110億円の融資を受けた。同法人は弁護士、公認会計士も参加する調査委員会を設置し、経緯の調査を始めた。文部科学省は詳しい報告を求めている。
 同法人によると、巨額損失が出たのは外資系の2金融機関と2007年度に契約した金利スワップ、通貨スワップと呼ばれる2種類の取引。契約額は約100億円だった。
 今年3月末時点の評価損は約53億円だったが、世界的な金融危機の影響で急激に円高が進み、損失が拡大。追い証として資金の追加を求められるなどしたため10月末に解約し、約154億円の損失額が確定した。11月上旬、銀行からの融資を受けて清算を済ませた。


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当然、各新聞社からの大学問い合わせが増え、他大学の情報が出てくることは想像に難くない。



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立正大、資産評価額で148億円損失

読売新聞

2008年11月21日


 立正大学(東京都品川区)が資産運用を目的とする金融取引で、今年9月末時点で約148億円の評価損を抱えていることがわかった。


 同大の財務担当理事は「債券は長期保有を目的としており、ただちに学校経営に影響するものではない」と説明している。

 理事によると、同大は国内の証券会社を通じ、欧州の国債などを外貨建てで購入して運用しているが、円高や金融市場の混乱で評価額が下がり、今年3月末時点で約96億円だった評価損が、約148億円に拡大したという。

 大学の金融取引を巡っては、駒沢大学が154億円の運用損を計上したことが判明。文部科学省が報告書の提出を求める事態になっている。



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さて今回の件で、少しの不安を覚えている。

それは各大学の資産運用状況ではなく、今後の資産運用に対する流れである。


駒沢大学の場合は文科省から報告書を求められている。

これは損失が運用資金を超えており、キャンパスを担保に融資を受ける事態になっているので

当然とも言えるが、さて立正大学の事例はどうであろう。


記事の内容だけでは判断できないが、外貨建ての欧州の国債を購入しているという事例でいえば、

資産運用として特にハイリスクな運用とは言えないのではないだろうか。



各大学の運用実績を開示すれば、ある程度積極運用していた

大学の多くは損失、あるいは評価損があるだろう。

しかし、それは大学に限ったことではない。



もともと大学という組織は積極的な運用をしているわけではない。

Clear Consideration 」で以前紹介されているように、日本の私立大学の平均利回りは1.6%にすぎない。


今回の事例を受けて、各大学が今後より保守的な運用になっていく可能性は否めない。

そうすると、ますます資産運用について日本の大学は考えることを止めてしまうのではないだろうか。