ポリ か 救急隊員  | “Mind Resolve” ~ この国の人間の心が どこまでも晴れわたる空のように澄みきる日は もう訪れないのだろうか‥

 
 
 
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世の中には色々な職業があって、
日本の映像業界のスタッフ側(?)の一人、
自分の好きなことを堂々とやって
とても楽しく仕事をしている人もいた! 
・・・・・ということを発見した瞬間がある。
俺も初めて逢った時はちょっとビックリした。
「世の中にはこんな人もいるんだ」
視野が拡がった。
ここではその人のことを仮に
“芸能ブローカー”
と呼ぶことにしよう。
本人も、
「オレは芸能ブローカーだ」
と云っている。
云っているだけでなく、
やっていることも芸能ブローカーそのものだ。
 

ある日、麻布十番の“ビックリ野菜市”(八百屋)で買い物を済ませた俺が、
三田3丁目のマンション(元自宅)へ着くと、
留守番電話に こんなメッセージが入っていた。
    
「あぁ、オレだけんど。
あしたぁ、東神奈川。
ポリか救急隊員。
できるようだったら電話くれ。」
ガチャン。
    
普通の人なら意味不明だし、誰なのかも判らないと思うが、
そのガラガラ声は、どう聞いても、まさしく、
芸能ブローカー、
その人である。
妻は妻で電話の前に立つ俺の横で笑っていた。
“ポリ”というのは警官衣装を身に纏った仕出しのことで、
“救急隊員”とは、同じく貸衣装を着た“担架で人を運ぶ人”・である。
俺はスグに芸能ブローカーの携帯へ連絡し、
翌日、朝6時半に東神奈川駅前へ集合することになった。
風の強い一日だった。
「ポリか救急隊員」と云っても、
あらかじめ前日から“役”が決められていることもあれば、
撮影現場に行って、そこで助監督等により、
特徴や体格を見てもらってから決めてもらう場合もある。
なにせ、”仕出し”というのは映像背景の道具に過ぎない。
そしてその物語のシーン、その雰囲気作りに重要なのが衣装である。
その日は、助監督が一人一人の顔を見て、 
「あなた、警官。あなた刑事、スーツは持ってきた? ・・・」
という具合に撮影開始前に選出された。
で、俺は、いつもの如く警官の衣装を借りて、
ロケ用のパトカーの周りをウロウロする一人ということになった。
テレビや映画のバックに映る警官や鑑識班というのは、
基本的に“短髪である”というのが鉄則で、
ロン毛、ピアス、茶パツは許されない。
そういう意味では“GIカット”が好きな俺のツラ構えを見た助監督は、
瞬時に判断できる(・・・常日頃からそうしてもらうようにしていた)。
“いつもの如く”というのはそういう意味。
また本来、劇用の警官というのは
映像の見栄えを調えるためもあってか、
身長175cm以上が要求される現場も少なくない
だから衣装のサイズは帽子もデカイ物が多い
最近のテレビドラマ特に民放各局の連続モノは、
そういうことに拘っていられないほど忙しいのか、
登場する役者の知名度とスポンサーの大きさ、
流行の音楽で飾りつけるという お約束の内容で、
みんなで数字(視聴率)を追い回す・・・。
そんな傾向に偏りがある映像づくりが多い・ように見受けられる。
その日も似たようなドラマの撮影だったが、
ちょっと違ったのは、尊敬する役者の一人、
“真田さん”も出演していたドラマの撮影だった。
新聞編集者の実情をテーマに描いた作品だったか、
編集長役の三國さんの息子さんと、
脱獄犯を追い回す“イワクつき刑事”を演じる役者さんはともかく、
俺にとって、その三人以外、
あとはどうでもいいようなドラマだった。
特に最近の撮影現場では、
挨拶もしっかりとできないような若手女優や若いヘボクレ男優もいて、
撮影待機中の態度もふてぶてしく、
仕事の取り組みも不真面目な奴も多い。
そうした中で、真田さんや三國さんの息子さんは、
スタッフも仕出しも関係なく、相手を前にすると常に腰が低い。
特に真田さんの礼儀正しさというものは、
ある意味で由緒正しきサムライのように、
“現場の仕事”というものを最初から最後まで
決して、一瞬足りと“ナメていない”姿勢が伺える。
ところが、残念。
その日は真田さんの姿はない。
全然 別のシーンだった。
代わりに、
俺が大好きの反対の若手女優がメインのシーンだった。
内容は、
“何かの犯人が立て篭もった どっかの施設に
48時間以上 監禁された女性新聞記者が救出される”
というようなシーンだったと思うが、
まぁ俺は身長175cm以下の“警官”ということだったので、
その“茄子の仲間みたいな顔”(?)と絡むカットもなければ、
俺の役目はその他大勢の動きに過ぎない。
それはそれで安心していた。
    
ところが、芸能ブローカーが俺を呼んだ。
「南ぃ、お前ちょっと梅津と代わってくれ!」
「?」
「あの野郎、『ストレッチャーはやったことねぇ』とか言って
今になって『救急隊員できねぇ』とかヌカシやがって。まったく・・・」
「いいっスよ。衣装は?」
「いまヤツが持ってくっから。頼むな・・・」
どうやら芸能ブローカーは助監督とも話しをつけた模様で、
一旦 着替えた警官の衣装を 今度は
救急隊員のグレーの衣装に替わることになった。
    
「ええっと、救急隊員の方?」
「はい、南です」
しばらくして、赤を入れた台本を片手に助監督がやって来た。
「あのぉ、芝居がちょっとあるんですけど大丈夫ですか?」
「はい」
「それで、○○役の“ト●●●●●”さんを
建物の出口から救急車まで運ぶんですけど、
その時に色々と切り返しとかもあるんで、
現場での支持に従って動いてもらいたいんでお願いします」
「はい」
悪天候の中、ロケのスケジュールに負われていた所為もあったのか
なんか妙に慌しく忙しない助監督だったが、
そういう前もって相手の心の準備に配慮する部分は、
数字に追われる連続モノの現場においては稀に思えた。
「んだぁ!?、やけに風がつえーな、おい・・・」
横にいた芸能ブローカーは「そんなこと知ったこっちゃねぇ」という感じだった。
むしろ、「オレがいるからヤツ(助監督)は気ィ使ってるんだろ・・・」
と、そんなふうに云いそうな雰囲気だった。
事実、かつて別の現場で、
その助監督の”ある手助け”をした想い出話しがあった。
それを横で聞いていた当日の撮影待機時間・・・。
    
    

     つづく。    http://ameblo.jp/badlife/entry-10003536477.html
    
    
    
    
    
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    ポリというのは警官衣装を身にまとった仕出しを示す。