人情派のスープ焼きそばの隠し味とは? ~都立大学「麺家 八の坊」~
ホッとできるラーメン屋が好きだ。
居心地の良いラーメン屋とでもいうのだろうか…
こぢんまりしてはいるが清潔な店内、
BGMは小さな音でJAZZが流れている。
ラーメンを食べる前に軽く一杯飲んで、旨味のチャーシューなんかをつまむと気分だ。
店主は寡黙ながらも、真摯な姿勢で料理に取り組み、出される料理にはどこかあたたかみがある…
そんな店に出会うとホームグラウンドを見つけたような幸せな気分になれるものだ。
今年の2月に都立大学にオープンした「麺家 八の坊」もそんな店の一つではないかと思う。
さて、この店は友人Tとは旧知の澤田謙也 氏がプロデュースをする店である。
澤田氏は香港映画で主役を務めるほどのアクションスターであり、私もかれこれ20数年前に友人Tが撮った映画で共演したことがある。(といっても私はエキストラであったが…)
そんなわけでおそろしく硬派なラーメン屋ではないか、と思っていたのだが、ところがどっこいこれがなかなかどうしての人情派ラーメン屋であった。
元天ぷら家だったという店はカウンター7席だけの小さなお店。
天ぷら家の面影か、和テイストがそこかしこに見られ、これがなかなかの落ち着きを演出している。
(老舗の風格すら漂う、和テイストな風情がある)
そして、店主の穏やかな人柄が、ホッとさせるなにかを感じさせる。
この店主は澤田氏の弟さんなのであるが、硬派兄とは違って温厚さがにじみ出ている。
その温厚さが料理にも表れている、といった感じだ。
ちなみに「八の坊」とは伊豆長岡にある旅館から名付けたものだそうだ。
メニューはラーメンとスープやきそば、冷やしラーメンの3種類。
中でもスープやきそばに心ひかれる。
あの焼きそばがひたひたのスープに浸かっているものなのであろう…
果たしてうまいのか?
ちょっと考えるとソースとスープの相性が合うとは思えないのだが…
で、できあがったのがこちら。
(見た目、ソーキそば風のスープ焼きそば)
見た目は沖縄のソーキぞば風。
ふーむ、紅ショウガやもやし、キャベツなど具は確かに焼きそばのものだ。
おそるおそる麺をすすってみる…
おぉ、確かに焼きそばである。
麺にはウースターソースの味が染みており、うっすらと焼き目までついている。
では、スープはどうか?
ム…ムムムム…豚骨スープのコクと野菜の甘み、それにウースターソースの味がなんともいえない不思議な味を醸し出している。
(もっちりとした太麺とスープが良く絡む)
「いやね、那須の方で昔からスープ焼きそばを出してる店があるんですよ。
那須には子供の頃からよく行っていたんで、ずっと頭にあったというか…
で、自分も作ってみようかなと。
でも、その那須の店でスープ焼きそばは食べたことないんですけど」
と店主は人なつこい笑顔を浮かべて笑った。
つまりはスープ焼きそばというものを独自の感覚で作ったということだ。
作り方はシンプルで、麺を炒め、野菜を炒め、そこにラーメンスープとウスターソースを合わせて軽く炒める、といったものだ。
私の好きな焼きそば屋といえば浅草の「花家」 であるが、通常のソース焼きそばというのはなにか物足りなさが残る。
縁日の粋を出ないというか、満腹感に欠けるというか、とにかくメインディッシュとしてはどうなのよ、ってな感じであるが、
スープ焼きそばの場合、そんな心配はない。これはこれで立派なメインである。
あのソース焼きそばがメインになれる日がくるなんて、と思うと感慨深ささえ感じる。
「お前も立派になたなぁ、よしよし」ってなもんである。
あのシャビーさがたまらない魅力のソース焼きそばが、上流階級に出世したくらいのイメチェンといえよう。
スープになってB級に格を落とした、名古屋のスープパスタとは正反対の結果である。
ちなみに店主は家系で修行していたとのことで、ラーメンは家系テイストであるが、
家系の脂ギトギトからすると極サッパリとしている。
家系のテイストは好きだがあの脂にはへきへきする、といった人には新鮮な感じがするのではないか。
で、期間限定のはずが、定番メニューのレギュラー入りを果たしたという冷やしラーメン。
こちらは細麺の坦々麺風味。
クリーミーなスープはまろやかで、ずいずいと麺がすすむ。
(つるつると食べ進む、食欲増進冷やしラーメン)
ここではたと気がついた。
八の坊の料理には優しさがあるのではないかと。
スープ焼きそばはソース焼きそばのテイストが残るなつかしさが感じる逸品、ラーメンは家系ながら脂をおさえたサッパリ味、そして冷やしラーメンのまろやかさ…
店主の人柄がにじみ出るような料理である、と思った。
料理の隠し味は人にあり、と実感する店なのではないだろうか。
帰り際、澤田氏に「おい、知り合いだからといって提灯記事みたいなぬるい原稿は書くなよ」と釘を刺された。
提灯記事かどうかは実際に訪れて、料理と店主となにやら妙に落ち着くお店の雰囲気に触れればわかってもらえると思う。
(左から心優しき店主、友人Tこと高嶋政伸、私、強面の澤田謙也氏、イナちゃんマンこと稲垣雅之氏)
(澤田氏が探しに探したという地蔵。
なぜホレたかは直接、お店で本人に聞いてみよう!)
●「麺家 八の坊」
目黒区中根1-1-10
電話:03-5701-0455
営業時間:11:30~15:00(月~日)
18:00~25:30 (月~金)
18:00~23:30 (土・日 )
定休日:水曜